子狐ハルの恩返し
一瞬、何かに捕まれたような感覚がした。


それはふんわりと、シルクの大きいハンカチで包まれたような極上の感覚。


見上げてみると、そこには僕を抱えた優しい顔の少女がいた。


人間を見たのはこのときが初めてである。


「大丈夫?狐ちゃん?怪我…!そうだ!怪我あるかなっ!?」


少女は僕を持ち上げ、体のあらゆるところをじぃーと真剣な眼差しで見つめている。


『なんっ………何なんだよ!?コイツ………!?もしかしておかあさんが言ってた人間ってやつじゃ……!?』


母からは<人間には関わるな>と厳しく言われていた。


人間は狐やイノシシを容赦なく惨く殺すからである。


しかし何故だろう、少女からは殺気が感じられない。


『いや!これは殺気を隠しているだけで、きっと僕を狐鍋にしようとしているに違いない!』


と思い、少女に警戒心を抱く。


「……!あっ…足怪我してる……!助けるときに地面に擦っちゃったのかな………」


そう言うと、少女はバックから傷薬を取りだし、僕にかけた。


液は傷口に染み、激痛が走る。

『いででででででででっ!!!』


ジタバタと陸に打ち上げられた魚のごとく暴れ、キャンキャンと鳴く。


『やっぱり僕を殺しにきてるよこの人間!』


涙目になる。
< 2 / 11 >

この作品をシェア

pagetop