My Fair Farewell
「裕、時間はだいじょう……」
「映画」
わたしの声と、裕の声が重なった。
反射的に黙ったのはわたしの方だった。
「……だったよな、初デート」
わたしは勝負に負けた。
わたしが話し続けて、裕にわたしたちが付き合っていたころの話を持ち出させないようにする、という勝負に。
ズキ、と、胸が痛んだ。
初デートのことを思い出していたら、裕と付き合っていた一年半の思い出がぜんぶ、にわか雨みたいに降ってきて。
雨粒がひとつひとつ、針みたいになってわたしを刺していく。
一年半のすべてを過去の素敵な思い出にするには、一ヶ月という期間はあまりに短い。