過保護な彼に愛されすぎてます。


「でも、せっかくうまくまとめられたし」

手櫛でラフにっていうのは、最初はそれなら簡単かもって思ったけど、実際にやってみると難しかった。
あまり適当でもボサボサに見えちゃうし。

それでも頑張ってみただけに言うと、郁巳くんはビニールの包装からシュシュを取り出しながら笑顔で言う。

「うん。可愛くまとめられてる」
「だったら、明日とかに使わせてもらうから……」
「大丈夫だよ。俺がまた可愛くまとめてあげるから。洗面所いこ」

笑顔なのに。声だって言葉だって優しいのに。

ピシャリと押さえつけられた気がして黙ってついていくと、郁巳くんは洗面所の鏡の前でそっと私の髪に触れ、ポニーテールを解く。

パサッと髪が下りると、郁巳くんは私の髪と首の間に手を差し入れポニーテールを作り直す。

首の後ろにあたったその手が夏なのに冷たくて、なぜだか恐いという思いが浮かんだ。

「んー、こんなもんかなー」

首を捻りながら、郁巳くんが鏡のなかの私を見ながら髪をまとめていく。
トップから流れる髪があまりぴっちりしないように、ところどころ緩めながら丁寧に。

それは、私が結ったポニーテールよりも可愛くてオシャレなんだろうけど……なんとなくはしゃぐ気分にはなれずに、ただ黙って郁巳くんの手先を鏡越しに見ていた。

黒いゴムで結んだあと、郁巳くんが白いシュシュをつけてくれる。
そして、その出来にか、満足そうに微笑んだあと、鏡越しに私と目を合わせた。


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