過保護な彼に愛されすぎてます。


「おじさん、日本酒好きでしょ。だから、仕事で地方行くと必ず日本酒買っていくようにしてて、一緒に飲んだりもしてたんだけどさ。
そのなかで、奈央ちゃんは俺がもらっていいってことでとっくにまとまってるから、今日挨拶しに行っても、おじさんたちにしたら今さらって感じだろうし。
堅苦しい感じにはならないから、奈央ちゃんはなにも恥ずかしがらなくて大丈夫だよ」

「え、とっくにって……いつから?」

驚きの引かないまま、疑問をこぼすと、郁巳くんは「んー」と首を傾げる。

「一年ちょっと前くらいかな」

そんな前……と、顔をしかめてから、ああそういえば……と思う。

そのあたりから、会いに行ったり電話をしたりすると、お母さんもお父さんも必ず〝郁巳くんと仲良くやるように〟って言うようになった。

単純にそれは、お隣さんだからだとかそういう意味合いだと思ってたけど……〝恋人として〟ってことだったのかと今さら納得する。

〝彼氏のひとりも作れないでなにやってるの、まったく〟っていうお母さんの余計なお世話な口癖を聞かなくなったのも、そのころからだ。

「お父さんもお母さんも知ってるなら、わざわざふたりで挨拶なんか行かなくたっていいじゃない」

知らないうちに両親から攻略されていたことを責めるのは諦めて言うと、郁巳くんはベーコンをスクランブルエッグの隣に乗せながら明るく笑う。

「まぁ、おじさんとおばさんには必要ないけどね。でも、両親を前に、奈央ちゃんが自分の口で俺との仲を報告してくれることに意味があるから」

一瞬、ジャラッと音を立てた気がした鎖。
付き合い出したっていうのに、こういうところは変わらないなとため息をついていると、カウンターテーブルの上に置いてあったスマホが鳴る。

確認すると、お母さんから『今日、何時頃くるの?』のメッセージ。
たぶん、今日行くってことは、郁巳くんが連絡したんだろう。


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