君を愛さずには いられない
河村志穂。

まったくもって腹が立つ。

俺がどんだけ無視しようとも全然動じないばかりか

頑固この上ない女だ。

昨日も外出がてら社用車の中で口論になった。

「だから私言いましたよね。Y社の秘書課には御徒町のどら焼きでないとダメだって。」

「うるさい。わめくな。」

俺は爆発した。

毎日なにがしかの反論をネチネチと言われ

昼飯でさえ静かに食べられず

いい加減ストレスの限界にきていた。

「クソォ、頭痛がしてきた。」

自分でも言ってることが可笑しいとわかっているが

あいつは女じゃない。

なぜなら河村は俺が吐き気をもよおさない唯一の女だからだ。

俺は過去に女に捨てられたトラウマから離脱できず

女を受け入れられなくなっていた。

最悪なことに女の匂いだけで気分が悪くなる有りさまだ。

仕事だと意識して割り切っているつもりでも

嗅覚に警報が鳴り響いてダメだった。

半径5m以内に女の陳列物を並べてほしくなかった。

特に女が風上に立とうものなら鼻が変曲がるのと

イライラが増幅するのとで

眉間のシワが深くなりつつ

にらみを利かせた目つきの険しさが

さらにアップすること間違いなしだ。

ところが世の女どもはなぜか突き放せば突き放すほど寄ってくるという

矛盾した生き物で

営業回りが苦痛に思えてならなかった。

あの後河村ともうひと悶着あった。

< 20 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop