君を愛さずには いられない
局長が単刀直入に切り出した。

「佐竹、近日中に辞令がおりる。」

そう言って俺にファイルをよこした。

中身はカナダ支部の件だ。

「高岡とLAへ行ってこの件を固めてくるように、いいな。」

俺は即辞退しようと口を開きかけたが

その前にユリの声が響いた。

「仁、あなたがこの1年半自由でいられたのは局長のお陰だということがわかっているわよね。」

相変わらず威圧的なユリの一声に

俺は瞬時に腹の中が煮えくり返った。

哀愁がわくどころか嫌悪感で歯ぎしりした。

こんな女に夢中になっていた自分を消し去りたいと本気で思えた。

鏑木が彼女を持て余しているのと

俺にタスキを渡して自分はお役ご免になるのを

待ちきれない様子でいるのを察した。

ユリと鏑木二人の関係が終わったのかと思うと

俺は内心可笑しかった。

あんなにこだわっていた自分が情けなくもなった。

局長が俺とユリの間に割って入った。

「辞令は社長のサイン待ちだ。おおむね承諾はいただいている。君はいつ渡米できる?」

早すぎる展開に俺は脳みそをフル回転させた。

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