◆Woman blues◆
さ、三十!

もっと若く見えるけど……ふーん。

反射的に自分との歳の差を計算し、頭を振る。

……七歳差か。

それからハタと我に返る。

計算してどうするんだ。

…………虚しいわ。

その時鮎川太一が私に駆け寄り、私はその足音で現実に舞い戻った。

「足、グキッてなったんですか?」

「へっ?!ああ、そう。だから大丈夫。お風呂入ったら湿布貼る」

「それからどうするんですか?」

「……は?」

私は鮎川太一を見上げた。

彼は茶色い瞳を私に向けてこちらを覗き込んだ。

瞬間的に、私の心臓は早くなる。

「だって、まだ八時過ぎですよ?僕、質問攻めで歓迎会の間中、ほぼ飲まず食わずだったんです」

そう、六時から始まった歓迎会は、二時間で一次会が終了した。

私以外が二次会に行く中、主役である鮎川太一が、

「申し訳ないんですけど、僕、社に早く馴染むためにも過去のヒット商品やその製造方法を勉強しておきたいんです」

当然、女子のブーイングは半端なかったが、

「早く皆さんのお役にたちたいんです」

と甘く微笑むと、

「じゃあ、また近々親睦会やりましょ!」

諦めの笑顔で彼女たちは二次会へと消えていった。
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