◆Woman blues◆
「あの、鮎」

「夢輝さん、そのうち僕ともデートしてください。僕にもチャンスをください」

私の言葉をかき消すように太一がそう言って微笑んだ。

その太一の声に、隆太の笑みが消える。

「鮎川くんだっけ?
本気で夢を誘ってんの?」

太一が隆太に向き直った。

「本気です」

隆太は何も言わず、私たちの間に沈黙が流れた。

やだなんなのよ、凄く気まずい。

「夢輝さん、どうぞ気を付けて楽しんで来てください」

太一は私にニッコリ微笑んだ後、隆太に頭を下げてオフィスを後にした。

……太一は隆太と飲みに行く私をどう思っただろう。

嫌な女だと思っただろうか。

冷めて……しまっただろうか。

一刻も早く、太一に言い訳したいような、それでいて彼が冷めたなら、私に対する気持ちはそこまででしかなかったんだという、諦めの気持ち。

何度も胸の中に高い波が生まれては消える。

「こら!」

「いたっ!」

ピンッ!と指で頭を弾かれ、ビクッとして隆太を見上げると、彼は不愉快そうに瞳を光らせて私を見下ろしていた。

長めの前髪が影を落としていて、不機嫌オーラが半端じゃない。

二人だけになったデザイン一課のオフィスがなんだか変に感じる。
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