ドルチェ~悪戯な音色に魅せられて~
ラバーズ・ドリーム
「んー……」
「おーい、起きた?」

隼人さんの柔らかな声が耳をくすぐる。
瞼が眩しいから、きっともう朝。
でもあと少しだけ心地良い世界にくるまっていたい。

「……まだ、眠い、んむっ」

んーーーーーっ!?

「ぷはっ、苦しい!」
「ククッ」
「え?……何事!?」
「アハハッ!」
「……隼人さん?」

私、今何されてた!?
凄い苦しかったんですけど。
そしてなぜ彼は大爆笑しているの。

「くっ、ハハッ面白い顔」
「寝てる人で遊ばないでくださいっ!」
「なんだよ。また泣かせたら悪いかと思っていてやったのに」
「えっ……!っは、隼人さんなんか、いなくたって泣きませんから!」
「……マジかよ」

……あ。
どうしよう、私また心にもないことを。

「ご、ごめんなさ……」
「じゃ今夜は『隼人さんがいないとダメですぅ!』って鳴かせてやるよ」
「……へ?」
「それとも今がいい?」
「……っ」

眼鏡を外した時の彼は、必要以上に顔を近づけてくるから要注意。
甘くキスされるのかと思えばそんなんじゃなくて、寸止めで射抜いてみたり。
とりあえず辱しめたいらしい。
なんだろうこの、ひねくれた愛情表現は。

「わっ、私、今日は帰ります!」

そうだよ、日曜日だもん。
明日から仕事だし、飲んだくればっかりしていられないもの。
……また、一週間は会えないのか。
ちょっとだけ寂しい気持ちに沈むと、隼人さんは意外な言葉を口にした。

「じゃ俺も行こー」

「……どこに?」
「お前ん家」
「……」
「そんなに嬉しい?」
「別に!全然っ!」
「フッ、口以外は正直だな」

だってそりゃ本当は嬉しいです、けど。
部屋片付けてあったっけ?
掃除してないし、そもそも狭い!
こんなホテルに泊まった後に来たら犬小屋と勘違いするよ。

「でも、うーん」
「諦めろ。お前に拒否権はない」
「……そうですか。わかりました、庶民なめないでくださいね」
「……は?」

あんまり偉そうな隼人さんに、私もニヤリと笑ってみせた。





「お疲れ様でしたー!そしてようこそ。いらっしゃーい」
「……お前、この俺を使いやがって」
「長女の習性です」

油に醤油、お米と一週間分の野菜などなど。
荷物持ちがいるなら有り難く使わせていただきます。

「隼人さんも買ってたじゃないですか」
「豚バラが食いてぇ」
「庶民的で助かります」

……私服の隼人さんなんて初めて見たけれど、スーツじゃないだけで凄く身近に感じた。

一緒に買い物して、一緒の家に帰って、一緒にご飯を食べる。
意地張りな私を可愛いと笑う人。

「ふふっ」
「何妄想してんの」
「してませんっ!」
「夜のお楽しみにしとけ」
「だからっ!……そういえば、仕事休みなんですか?」
「あぁ、うん。休み」
「そっか」
「たっぷり虐めてやるから安心して」
「お断りします!!」
「ハハッ」

私は久々に賑わう食卓に、ただ幸せを噛み締めた。
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