紳士な婚約者の育てかた


長い手術を終えて、いまだ入院が長引いているおばさんの家。
お掃除や壊れているところの手入れをしているから最初に比べると
全然違う家のように快適になった。
志真の初めてのひとり暮らしには勿体無いくらい良い場所。

たとえおばさんが戻ってきても実家に帰るのはちょっと嫌かもしれない。

部屋を借りようか、それとも知冬についていく?


「……決断力のない私」

部屋に敷いた布団に座ってぼんやり考える。
こんな時母なら、おばさんならパッパと考えをまとめて行動しているだろう。
それが出来ない自分はやっぱりこの家の子なのに駄目な奴なんだろうな。

そう思ったらやっぱりゆううつ。



「眠れない?」
「知冬さんも?」

寝返りを何度もうって、でもねむれず。お茶でも飲もうと1階へ降りて行くと
リビングからほのかな灯りが見えて、入って行くと知冬が持参したルームランプ。
と、酒の入ったグラスを持つ彼が。

「志真も少しどうですか」
「はい」

誘われて机を間にはさみ彼の反対側に座ってお酒を貰う。

「母親が明後日到着するそうなので、学校へは行かず迎えに行ってきます」
「私は」
「何時も通り仕事をしてください。後で迎えに行きますから、
ホテルで一緒に食事をしましょう」
「…何か手土産とか」
「気にしないでください、母は自分よりも俺を大事にして欲しい人なので」
「本当に愛されてるんですね」
「重すぎますけどね。昔付き合っていた女性を母に引き合わせたら
彼女はその後すぐに音信不通になった事がありましたから」
「……」

当時の恋人が逃げ出すようなお母さま。
それってもしかして姑のイビリ的なものだろうか?
前回顔を合わせた時はそんな何も攻撃的じゃなかった。
というか、息子に会えて嬉しそうでこっちは簡単な質問だけで。

これからメインで始まるの?

「ああ、志真。違う。紹介したいほどの女性だった訳ではなくて、
母親があわせろと押しかけてきたので会わせただけですから」
「え。あ。…うん」
「たとえ気に入った女性でも紹介しようとは思いませんけどね。煩いから」
「…そんなに?」

何を言われるの?総攻撃されるの?怖いんですけど。
もし嫁姑戦争とか始まったら勝てる気がしない。

「志真?顔色が」
「だ、だって。緊張しますよ普通に」
「俺は志真と婚約してる。母親は関係ない」
「……知冬さん」

よかった、もし戦争になっても助けてくれる人が居る。

「うろたえておどおどしている志真が見れたらそれで満足」
「……そう」

でもないかもしれない。

「今の顔もいいね」
「…全然嬉しくないって分かってて言ってるでしょ」
「ほめたのに」
「……」
「拗ねた顔も」
「知冬さんのよっぱらいっ」


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