紳士な婚約者の育てかた
そのよん

褒めてくれてるの?それとも思いっきり貶してるの?
こんな状況でどうやって自分が主導権を握って
知冬を理想の男性に育てられるんだろう。

そもそも私の理想の男性ってどんなの?

「志真?」
「……知冬さん邪魔しないからここで座ってても良い?」
「どうぞ」

先を急いでも何も決まってなかったら意味がない。
ちょっと落ち着いて考えようと適当な椅子を持ってきて座る。
知冬は相変わらずキャンバスに向かってサラサラとスケッチ中。

「……優しかったらいいんだけどな」

別に何を求めてるわけでもないし。
新野先生は3高は外せないと言っていたけど。
知冬はそれに当てはまるし、生活も安定もしている。
ダメ押しでお父さんは富豪だもんな。

お義母さんはこれから探っていくとして。

「……考え事?」
「うん」
「何を考えてる?」
「いろいろ」

知冬さんはマザコンなのか、とか。嫁姑問題は大丈夫だろうかとか。
フランスに移住するとなるとやっぱり仕事はやめることになるだろなとか。
友達になんて言おうかな、とか。びっくりするだろうなあとか。

今更な事がふつふつと頭のなかにわきあがる今日このごろ。

「その悩ましげな顔をスケッチに留めておきたい」
「だめです」
「金は取らないですよ?」
「当たり前ですっ」

たとえ似顔絵が欲しくなってもこの人には頼まないと決めたあの日。
忘れもしない、公園デートをしてたら500円で似顔絵を描いている人を発見。
志真が興味本位で近づいたら怒ったので冗談交じりに「じゃあ知冬さんが描いて」と
言ったら志真なら特別800円と返された。

後で冗談ですよって笑ったけど、うそっぽい。

もしかして私彼女じゃないんじゃないかなって本気で思った瞬間でした。

「まだ怒ってる?冗談なのに」
「…それくらいショックだったんですから」
「志真の絵なんて無料で100枚でも200枚でも描く」
「要らないですそんな…流石に気持ち悪い」

それに欲しいのは可愛らしくデフォルメされたポップな似顔絵だし。

「志真は難しい」
「知冬さんだって難しいもん」

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