紳士な婚約者の育てかた
「一緒に行きますか」
「行かないです」
朝の儀式を済ませたら一緒に朝食を食べて、のんびりする間もなく
お互いに出勤する準備を整える。
志真は中学校の事務職員、知冬は海外から招かれた美術講師。
彼の本業は名のしれた売れっ子の画家であり、
知冬という名前よりテオドールとしての名前が有名。
先生の許可を得てから学校内にあるパソコン室にてこっそり検索したら
ザクザク彼に関する記事が出てきてびっくりした。
「……」
「ね、粘ったって行かないのは行かないです。先にどうぞ」
先に準備が出来たらしい知冬が車のキーを持って尋ねる。
同じ場所へ行くのだから一緒に行くほうが合理的、だとは志真も思っているけれど
なにせ知冬は赴任してすぐにその容姿と明るいキャラで学校のアイドル先生。
地味で目立たぬ事務の人でありたい志真は距離をおいている。
「じゃあ、行きます」
「はい。どうぞ」
とっても不満な顔をするけれど無理に志真を連れて行こうとはしない。
そして学校へ行けば同じ職場でも行動範囲が違うので
顔を合わせることは少ない
志真が異性の先生と話しているとたまに視線を感じるけれど、
たぶん気のせいだろうと思いたい。
「おお、いいところに来た」
「嫌ですよ」
「まだ何も言ってないだろ」
「どうせ西田先生のことだから部活の手伝いしろとか」
「さすがだ。よし、じゃあ」
「何がよしですか?」
職場である学校に到着し自分のせきについたら待ってましたと言わんばかりに
ジャージ姿の先生が顔を出した。こういう場合、絶対何か面倒を持ってくるから嫌。
適当にあしらっておけば彼は担任なので諦めて去っていく。
「朝から仲良しね」
「あの人は私を子分か使いっ走りだと思ってるだけですよ」
「あははは」
「わ、笑い事じゃないです」
地味で目立たないようにしているはずなのに、気さくに生徒に声をかけられるのは
あの脳筋馬鹿が大声で喋ってくるからだ。
ああ、恨めしい。