紳士な婚約者の育てかた


「欲しいものがあるなら自分で準備したらいいのに…」

部活で使う備品が壊れたので新しいのを買って欲しいそうで。
でも何かと備品を買っているせいか彼が行くと中々許可が降りないらしく
それで志真にやらせようという酷い魂胆。

ブツブツ文句を言いながらも結局必要書類を手にあれこれ手配してしまうのは

やはり子分の性なんだろうか。

「テオ先生の作品、もっと見たいです」
「私も。日本にアトリエって無いんですか?」
「見学はダメですか?」

廊下を歩いているとそんな会話が階段から聞こえてくる。
上がってくるのか、それともおりてくるのか。
分からないけど鉢合わせるのは何となく気まずくて
志真はその場に隠れた。

声がどんどん近くなる。息を殺す志真。

「アトリエは残念ながらナイですね。私の作品は日本には少ないです」
「そうなんだ。でもフランスに行けばありますよね」
「いいなあ。芸術の都パリ。行ってみたいなー」

楽しげな会話が続き、また声が小さくなっていく。
テオドール先生は今日も生徒に大人気。

「芸術の都…か」

彼の拠点はパリではなくてもっと南部らしいけれど。
でもフランスはフランスで、日本からは遠い。
どれくらいか検索してその遠さに嫌になってすぐ消した。



「彼氏と遠距離するかも?また茨の道を行くのね山田さん」
「…ですよね」

困ったときの保健室。今日も自分磨きに余念のない新野先生。
流石に知冬の名前は出さなかったが彼氏が出来たくらいは話した。

まあ、よく頑張ったわね!

と、まるで子どもを褒める大人のような言われ方だったのが若干引っかかったが。

「8割は自然消滅するのが遠距離よ」
「そんな、8割は言いすぎじゃ」
「相手を思う強い意志とマメな連絡がないとダメなの」
「……」
「山田さんはマメな方?彼はどう?」

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