紳士な婚約者の育てかた
「……さっきの人、凄くいい人だったなぁ」
名刺は奪われて名前とかは分からなかったけれど、物腰は柔らかいし。
とても落ち着いていたし、何より優しかった。
きっと患者さんからもスタッフさんからも慕われている先生なんだろうな。
あの先生になら注射とかされても怖くなさそうだと安心できる。
歳は知冬と近そうなのに、
彼に最初に抱いた恐怖心と全然違ってちょっと笑う。
「志真。遅くなってごめん」
「ううん。むしろ思ってたより早かったくらい」
「君を1人にしたら危ないから。ベッドに放り投げてきた」
「あはは。もう、そんな冗談言って」
「俺は何時も真面目ですよ」
「……そ、そうなんだ」
え、本当に母親を投げ込んだの?
大丈夫かなお義母さん。
「帰ろう」
「はい」
知冬に手を引かれホテルから出る。内心、このまま部屋をとって
泊まっていこうなんて言うのかと思ったのに。
そんな事はなくてすんなりととめてあった車に乗り込む。
「これで平和な日々が戻ってくる」
「愛される息子も大変ですね」
「俺を愛しているのか、芸術家のパトロンにでもなったつもりなのか」
「もちろん。息子だからですよ」
「…だと、なおさら鬱陶しくて困りますけどね」
「私なんて親が自慢できる要素何もない娘ですから、諦められてるくらいだし」
教師になれていたらまだちがったのかな。今更だけど。
「君は俺の自慢の婚約者ですよ」
「ふふ。ありがとうございます」
「その可愛らしい微笑みを俺以外にも平気で見せる」
「……怒ってらっしゃる?」
いえ、あの、さっき別にあの人に笑いかけてないですから。
気分悪くてむしろ変な顔してましたから。
それで気を使って声をかけてくれたんですからね?
「そう思いますか?なら帰ったらお説教しましょうか」
「思ってないです!ふ、普通に。普通にお茶飲んでまったりしましょうね、二人で」
「…そうですね」
怒ってる。絶対怒ってる。
彼を支える方法よりもまず彼を宥める方法が知りたいです。