紳士な婚約者の育てかた
私は正直、そこまでマメじゃないかもしれない。
メールの返信や電話の折り返しは気づいたらすぐするけれど。
自分からこまめに連絡を取るほうかと聞かれたら怪しいかも。
遠距離恋愛をするならやっぱりそこはちゃんとやらないと不安。
「あーもういい。夕飯考えよう」
今ここで結論を出せる問題ではない。
志真は気持ちを切り替えて夕飯のメニューを組み立てることにした。
「夕飯は外で食べませんか」
帰るときは一緒に。彼の車で。買い物をして帰りたい時は特に重宝する。
ただ職員会議などで遅くなる時は説得して先に帰ってもらうけれど。
時間を合わせコソコソと人の気配がないのをチェックしてから乗り込む志真。
「えぇ」
乗ってそうそう、せっかく組み立てた献立がボロボロに崩れ去った。
「何か予定でも?」
「予定というか。今日はペスカトーレに挑戦しようと思ってたんですけど」
「それは美味しそうだ。では、父親には1人で食べてろと電話しておきます」
「まって。それ待って!ダメ!断るにしてももっと優しく!」
父親への当たりが非常に厳しいのは何故だろう。
フランス人である母親への対応は当然フランス語なので分からないけれど。
父親は日本人なのでその会話が志真にも理解できるが、大体そっけない。
「俺はペスカトーレが」
「それは明日作るから。今日はお義父さんとご飯しましょうね」
「父が店を手配するそうなので気にせず食べよう」
「……あ、うん」
それを聞いて内心安心をした。
どんなお店へ行くか分からないけれど、ファミレスでないのは確か。
なのにこの方はいつだってお会計は別か割り勘。
売れている画家さんは美食家なのかもしれないけど、
給料日前にフレンチとか余裕ですから。
婚約したら奢ってくれるかも、なんて考えが甘かった。