紳士な婚約者の育てかた

ルームメイトをしていたフェルナンドいわく、
最初は料理どころかちょっとした掃除も手伝いもしない人だったらしい。
言えばしてくれたようだけど、基本は無関心。時間があれば絵を描いていた。

ある日ついにキレて文句を言ったら料理以外は自主的にするようになったらしい。

「今の知冬さんはフェルさんの努力の上に成り立っているわけか」

彼自身はすぐ気がつくし綺麗好きなので掃除が嫌いとかではない、
たぶん幼いころからなにもしないでいいと母親に教育されたからだ。
知冬は志真以上に親の干渉の中にあったのかもしれない。

「何ですか」
「な、何してますか!」

そんな事を思いながら家に帰って来たら台所から何やら煩い。
嫌な予感がして急いで台所に入ると知冬の姿。

「は?…何って。…料理、ですけど」
「料理!?」

それは貴方が包丁持っている時点で分かってたけど。

分かってたけど!

「土曜日なのに出勤なんて大変だと思って。昼食は自分で作ろうと」
「お昼には帰るって言ったじゃないですか。包丁おろして」
「だから。君と俺の分を作ろうと思って」
「思わないで」

そんな根っからの箱入りサンに包丁とか持たせて怪我とかさせたら。
ちょうど来日しているお母様に私殺されます。

「炒飯を検索しました。大丈夫、イメージはできてる」
「じゃあ私が作るから知冬さんはイメージの通りに盛りつけて」
「志真。それは意味が無い」
「無いことはないです。きっと凄い芸術的な炒飯が」
「志真」
「だって。知冬さん包丁とかフライパンとか持ったことないでしょ?」
「ない」
「危ないです。包丁は手が切れるし、フライパンは熱いからやけどする」

親が子どもにするような表現だけどそれくらいじゃないと伝わらないと思った。
今まで台所に踏み入ることなんて殆ど無かった人が、いきなりどうして?

「初めてなら失敗もあるかもしれないが、それくらい構わない」
「知冬さん」
「君が絶対に駄目だというのなら諦める。けど、出来たら見逃して欲しい」

そんな寂しそうな顔をされると。

「……、……じゃあ。…材料を切ってください」




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