紳士な婚約者の育てかた

彼氏と一緒に台所にたつのはドキドキするものだけど

今は別の意味でドキドキがとまりません。

「待って待って!そんなガッツリ持たないでっ猫の手。猫の手!」
「人間に猫の手は不可能」
「そういう屁理屈言わないの」

包丁を生まれて初めて持つ人を怪我させないように教えるのは難しい。
自分だってそんな上手には出来ないけれども。
ああ、見ているだけでもハラハラして自分の作業がまったく進まない。

ちなみに本人のご希望で玉ねぎをみじん切りにしている所です。

「……ぅうん。…目が…痛い」
「かわりましょうか」
「Ca Va!これくらい…全然」
「そ、そう?知冬さんが涙目になっている…」

そんなきっちりと切らなくていいですからと言ったけれど
彼は必死に均等に綺麗に切ってくれた。神経質なのは絵だけじゃないみたいだ。
他の材料も彼に任せて切ってもらって、後は志真が炒めて。

「味付けは俺がしてもいいですか」
「え?ええ、いいですよ。じゃあ私はお皿を持ってきますね」

切るだけじゃ足りなかったのかそれとも料理に興味が出てきたのか。
志真の後ろでずっとスタンバっていて味付けをかってでた。
包丁もちょっと不安だったけど怪我なく使っていたし、
それくらいならいいかなと彼に預けて志真はお皿を取りに移動。

「盛ります」
「はい。芸術的によろしくお願いします」
「……、配色をイチから考えるので…少し時間を貰っても?」
「冗談です早く食べましょお腹すいた」

お皿にこんもりと綺麗に乗った炒飯。
昔から母親が仕事が忙しくて時間がない時はよく作っていた。
自分もたまに作るけれど、今回は何時もとは違う。

なんといっても彼と一緒に作ったのだから。

それも今まで作ったことがない台所にさえ入らないような人が。

ちょっと感動。

「志真?食べませんか」
「はい。では、頂きますっ」

手を軽く合わせ、スプーンを手に取りひとくち。
ありきたりの調味料だしそんな劇的に変わることはないだろうけど
でもこもっている愛情が違うものね、きっと美味しく感じるだろう。

「……どう?」
「……う、うん。…うん」
「うん?」


あれ?


どうしよう



ま ず い 。 

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