紳士な婚約者の育てかた


住む世界も国すらも違うのだからいきなり全部上手く行くわけがなくて

人生を最後まで共に歩いていこうとするのなら、

相手に直して欲しい所や理解して欲しいことは日々沢山出てくるから

お互いにちゃんとした話し合いが必要。

「あ、あの。知冬さん。朝のことなんですけど」
「……」
「あのね、あの…」

なのはわかってるんだけど、彼を前にすると中々言いづらい。
車を専用の駐車場にとめて歩き出す二人。
目的地は彼の父親が手配してくれたというお店だそうで。
どうみても高級なお店の並ぶ場所。

ドレスコードは大丈夫か心配だけど、あの父親の迫力があれば行けるかな。

「何ですか」
「うん。…朝はその、ほら。一番気が抜けてる時だから。
歯も磨く前だし、キスするならほっぺとか。隔週でどうかなって」
「俺は磨いてますが、不愉快でしたか?」
「恥ずかしいかなって」

そりゃ貴方は何時も先に起きていて準備もしてますけども。
こっちは起きたばっかりで不意打ちすぎるというか。

「俺と志真しか居ないのに?」
「……うん」

二人しか居ない家だって恥ずかしいのだから仕方ない。
二階には絶対に入ってこないでと言ってあるので上がることはまずなくて
志真と知冬の接触はあくまで1階、それもキスまでと決まっている。

抱擁はたまにされるけれど慣れていないせいか志真は逃げがち。

肩を抱かれたり腰を抱かれたり手を指を絡めてギュッとされるとか

恥ずかしすぎて涙が出そう。

不快感ではなくてひたすらに恥ずかしい。

「…なら、仕方ないですね」
「慣れてなくってごめんなさい。でも、何れは慣れたいなって」
「そうでないと困ります」
「はい」

外国人の友人は居ないからドラマや映画の知識だけど、
カップルは抱き合ったりキスしたり何かと密着しているイメージ。
だから知冬も積極的に志真に触れようとするのだろうか。

「まあ、恥ずかしがって涙目で逃げる君も中々面白いですけど」
「いじわる」
「そう言ってまた不貞腐れる顔も悪くない。気分が落ち込んだ時に思い出して」
「ひとしきり笑う、と」
「流石にそこまでは。ニヤっとするくらいでしょうかね」
「ひ、ひどい」

せめてそんな顔が可愛いとかウソでもいいから言って。

マジへこみしちゃうから。

「気づいたら君の事を考えてる」
「……」
「機嫌を直して、俺の婚約者さん」

でもそんな時は何時も優しい笑みを向けてくるからズルい。
志真の手をそっと取りその甲に優しいキスをする。

「…デザートも頼んでいい?」
「払うのは父親ですから、彼は大富豪です。何でも頼んでください」
「……う、ぅぅん」

これって素直に頷いていい?


わたし、試されてる?

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