紳士な婚約者の育てかた

「新野先生は男は褒めろって言ってたな」

彼を変えたいなら、伸ばしたい場所があるのならとにかく褒める。
手伝ってくれたら褒める、逆に相手が褒めてくれたら何倍も喜んで見せる。とか。
こうすると相手が自分をほめてくれてかつ喜ぶということを教え込むとか。

犬のトレーニングみたいですね、といったら「似たようなもん」と返ってきた。

つまり知冬が料理をしてくれたからここは大げさなくらいに喜ぶべきか。

いや、もう出来たら作ってほしくないので普通でいいな。普通で。

でも気持ちは凄く嬉しかったから、ご褒美なんておこがましいけれどキスをする。


「明日母親が来てもいいかと」
「はい。どうぞどうぞ」
「午前中に来て昼には帰って貰う予定です」
「そんな。もっとゆっくりしていってもらっても」
「そう。ゆっくりしたい。志真と」
「…知冬さん」
「母親はフランスへ帰れば何時でも会える。でも、君はそうじゃない」
「……」

何時でも気軽に会えるのは今だけ。呼べば返事をしてくれるのも。
こんな風に彼の胸の中に居ることも。できなくなる。

「昼から何処か出かけますか」
「そうですね。知冬さんとお出かけ久しぶりだな」
「部屋に家に居るとまた不審者が来ても困る」
「お義父さんからさっそく電話があって、セコムに入ってるかとか
監視カメラ設置したいとか。塀をもっと頑丈にしようとか。
程々にお願いしますって言ったんですけど、要塞になっちゃいそう」

守りが固いのは嬉しいけど、明らかにこのへんで浮いているし目立つし
おばさんが戻って養成するのに要塞に改造されていたら休めないかも。

「志真を守れるならそれでもいい」
「……」
「そうだ。実は絵の仕事を頼まれて」
「わ。凄い。お仕事!…じゃあ、あまり時間が」
「そんな大きな物ではないですよ。司書さんからの依頼で、
俺がたまに行く図書館の館長さんへのプレゼントだそうです」
「素敵。何の絵を描くんです?」
「……」
「え。な、なに?なに?」

何でそんな黙って顔を見つめるの?

「まあ、色々と」
「いろいろ」
「志真にも手伝って貰わないと」
「はい。私に出来る事なら」

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