紳士な婚約者の育てかた
そのじゅぅ

こんな高価なプレゼントなんて初めてじゃないか?
犬のような、猫のようなよくわからない手のひらサイズの置物は玄関に飾ろう。
まさかそれがとてつもない高価なものだとはきっと誰も思わないだろうな。
それをカバンにしまいこんで街を歩く2人。

「……」

知冬は志真が気になるようで先程からちょろちょろと彼女を見ては黙っている。
もしかしたら声をかけて欲しいのかもしれない、何時もならそうしていたから。
その視線を分かっているけれどあえて無視をする志真。

褒める教育はとりあえず今は保留しておく。

「そうだ」
「はい?」

突然立ち止まると大きな声を出す志真。

「紅茶。紅茶飲みに行きましょ」
「……」
「お店近くだから!」
「……」
「嫌ですか」
「いえ。行きます」

行こうと話をしていてつい延ばし延ばしになっていた場所。
フレーバーティも飲めるそうだから大丈夫だろう。
紅茶を好きになってもらうためにも、
あと、微妙になってしまった空気を戻すためにも。


「凄いイッパイ種類がありますよ」
「アップルローズティにします」
「わ。香りが良さそう。私はミルクティ」
「…志真らしい」

教えてもらったお店に到着し席に案内され、メニューを見る。
専門店だけに結構どれもお値段がするけれど。
内心、それで知冬が文句をいうかとハラハラしたけれど。
大人しくお茶を選んで待っている。

「フランスにもいっぱい紅茶のお店あるんですよね?」
「ありますよ」
「検索したらとってもお店が素敵で。近くにあったら通っちゃいそう」
「たまにはコーヒーも思い出して欲しいですね」
「今度美味しいコーヒーのいれ方を教えてもらうんです」
「誰に?」
「お友達の旦那さん。趣味だけど、プロ並みに美味しいコーヒーが」
「インスタントで満足しているのでそこまでしてもらわなくて結構です」
「……二人きりじゃないですよ?子どもさんも居るんですからね?」
「結構です」

いいもん。こっそり行ってやるから。

私だって知識を身につけてやれば出来る所を見せるんだから。

「あ」

知冬の手が伸びて、志真の指が絡め取られる。

「絶対に、駄目です」
「……」
「志真」
「はい。わかりました」

諦めてネットで調べよう。


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