紳士な婚約者の育てかた
そのに

ご馳走になる空気ではあるけれど、

表向きはやっぱり「私も出しますっ」と財布を出すべきだよね。

それでもし「じゃあ半分!」とか言われたら?
さっきこっそりとお財布の中身を確認しておいたけれど、
こんなヒヤヒヤするのならクレカの1枚くらい持っておいたほうが
この先いいかもしれない。

気が気でない志真をよそに先日お昼の番組で紹介されていた中華の名店が。
どうやら目的地はそこらしい。とってもお腹は空いている。

けど、もりもり食べられる空気じゃなさそう。

「テオ君!テオ君!こっちやこっち!」

そしてその玄関前でこちらに向かって両手をふっているお義父さん発見。

「知冬さん?」

恥ずかしいので早く合流してしまいたいのに何故か動かない知冬。

「……志真は考えたことがある?」
「え?なにを?」
「もっと別の、違う親だったら良かった。とか」
「昔はちょっとくらいは」

親も参加するような遠足や運動会、授業参観も誰も来なくて
ひとりぼっちだったのが寂しくて、何で娘より職場を優先するんだろうと
腹がたったりしたけれど。

たぶん、知冬さんが言いたいのはそういうのじゃなくて

大柄で日焼けした肌が厳つさを更に際立たせるスキンヘッド
手にはやっぱりクロコのセカンドバング。
どちらの組の親分さんでしょうか?と聞きたくなるような
あの悪い意味で目立ちすぎる父親への不満というか、

絶望というか、諦め?だ。

「どした?お腹痛いんか?志真ちゃん、テオ君元気ないな?何で?」

目があっても中々近づいてこない息子を心配してかけよってくる父。
息子がドン引きしている事にまったく気づく様子もない。

「いい歳をしたオッサンが人目もはばからず店の前で手を降っていたら誰だって」
「今日は中華してみたんやけど、志真ちゃん中華好き?」
「え?あ。はい。大好……。好物です」
「俺も腹減って腹減って。ほな行こか。個室予約しとるでな!存分に食べよ」

息子の苦言を聞かなかったことにして、志真の返事にご機嫌に豪快に笑って

さっさとお店に入っていく父親。

「知冬さん」
「いつもの事ですから」
「……お疲れ様です」

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