紳士な婚約者の育てかた
そのじゅうに

マリアが来てから30分ほどして母親も無事に到着。
若干酒臭いけれど歩きはしっかりしていて当然のように知冬をハグする。
ホテルで散々してたけれど、やはりあれはリセットされているようだ。
彼女も庭に出ていき何やら親子で会話中。

「ママさん、テオさんの事心配で仕方ないね」
「ですね」

仕事で描いている絵もしっかりチェックしているし。
母親であり絵の監督でもある、そんな感じ。

「テオさんの秘書、凄い若い美人。あれ、絶対女よけね」
「……」
「テオさんセレブ。顔も綺麗。モテモテだからね。変な女たくさん寄ってくるね」
「……」
「だからシマサン、ラッキーね」

豪快に笑ってまったく悪気なくいっているマリアだけど。
そんな話をされるとちょっと引っかかる。

そんな美人なのか。

女よけですか。

複雑な心境の志真を他所に、マリアも一緒に庭へ出て行って
3人で何やら絵を囲み話をしだした。
フランスでは何時もこんなふうに集まっているのだろうか。

美人の秘書も加わって?

その中に自分が飛び込む?

「……やっぱり、やめようかな」

とりあえずやってみよう!で突撃してそんな強力な壁にぶち当たるとか。
女の戦いみたいな中へ。知冬はきっとマイペースにやるんだろうし。
だったら日本でぬるま湯の人生のほうが自分にはあっているのかも。

「やっと帰った」
「お昼は?」
「マリアと街へ出て食べるそうです」
「知冬さんは行かないの?」
「行きません」

1時間ほどの滞在で母とマリアは帰った。とてもご機嫌だったから
悪い印象はまだ持たれていないはず。

「……そう」
「志真?」
「お昼から私も出かけようかなって」
「何処へ?昼からは2人で過ごすはずでは?」
「……」
「志真」

ちょっと拗ね気味の志真を他所に真顔で近づいてくる知冬。

「だって」
「何ですか。きちんと説明してください、何処で何をするんですか。
俺と一緒にいると言ったのだから納得出来る理由があるんですよね」

普段は何を言われてもだいたい無表情でスルーするくせに。
こういう時は真顔で絶対に引かないんだもんな。
怖いです。と言っても聞きやしない。

「だって。自信なくなる所かマイナスになっちゃったんだもん」

そばにいると辛いんだもん。嫌な妄想ばっかりしちゃって。

「君がそこまで言うのなら、……母親には少し早いが静かに」
「物騒な事しないでください!違うから!そんな事言ってないから!」

火サスみたいな事しないで!

「志真」
「…じゃあ、2人で映画!」
「映画……」
「今日はカップル割りの日で安い!」
「悪く無いですね」
「……」

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