紳士な婚約者の育てかた

私の人生って、ほんと何も無い。

説明しようと思ったらあっという間に終わってしまう。
なのに、知冬さんは両親から友人から何もかもが個性的で
画家という想像でしかわからないようなお仕事で。セレブで。

「志真。ペアシートにしましょう。ペアシート」
「でもいいの?映画は安くなるけど、ペアにしちゃったら割高になりますよ?」
「いい」
「即答!」

ケチなのか太っ腹なのか謎すぎるし。

そんな私たちはお昼を食べてから映画館へやって来ました。
二人きりで家に居て「続きをしましょう」とか真顔で言われたら困るから。
ちょうど気になっている映画もあったので、それを目当てにして。

「志真、何か飲み物は必要?」
「そうですね。やっぱり映画にはポップコーンとコーラが」
「……」
「お茶ふたつ」
「チケットよりあっちのほうが並んでますから、買ってきます」

分かってますよ、こういう所は物価が高いんですよね。
ポップコーンセット1200円、嫌ですよね。
何でペアシートは即答できてポップコーンはダメなの?
私が欲しいといえば買ってくれるのだろうけど。

あんな顔されてまで食べたくないし。


「3番シアターですって。もう10分もしたら始まるから席に座ってましょ」
「何を観るんですか?」
「うふふ。実は楽しみにしてた最新作なんです」
「へえ。……3番といいましたか?ここですね」
「行きましょ行きましょ」

知冬にはお茶を持ってもらってチケットを志真がもつ。
何を観るかは任せると言ってくれたので相談もなしに選んだ。
聞かれたとしても断固これにしようと言ったから同じことだ。


「…人が居ない」
「まだ時間がありますから」

ペアシートに座って広々としているとちょっと不思議そうに知冬が言う。

「3番に入るまでの部屋には人が沢山入っていってましたが」
「今人気のアイドルが主演してる恋愛映画とハリウッドの人気アクション映画今日からだから」
「そうですか。詳しいですね」
「映画は好きです。映画館もたまに行くんです。迫力が違うから」
「へえ」

自然と話しをしながらさり気なく志真の肩を抱く。
彼女も逃げることはしないで身を任せ、
先に買ってしまったというパンフレットを取り出した。

「日本では初めて観ます」
「そうなんだ。じゃあ、記念すべき映画になりますね」
「記念か。そうですね、志真と観たという意味では。記念かな」
「……うん」

ペラペラとめくっている志真。知冬は感慨深げに真っ暗なスクリーンを眺めている。

「…と…飛び出す…臓物の森?」
「面白そうなタイトルでしょ?」
「……」
「多種多様な殺され方で若者が臓物を森に撒き散らしていくというサバイバルホラー」
「OH……Mon Dieu!」

あれ?顔が青い?
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