紳士な婚約者の育てかた

知冬は悲壮な顔をして頭を抱え込んで何かブツブツ言っている。
志真はそれを横目にお茶を一口飲んでパンフレットを開いた。

「Non!」

が、すぐに知冬に没収されて開いている席に投げ捨てられる。

「知冬さん!ヒドイまだきちんとみてない」
「みなくていい。そ、そんな。そんな下劣なものを君がみる必要は」
「別にパンフには臓物の写真は載ってませんけど?」
「もし載っていたら抗議して差し止めさせます」
「そ、そんなに嫌でした?」

元からそんな冗談をいう人じゃないけど、これは顔がマジだ。
もしかしてグロ系の映画は嫌いだったのかな?
男の人はだいたい耐性があるものとばかり思っていたから意外。

「……もうチケットを買って席に着いてしまった以上は最後まで観ますが。
今度からはきちんと内容を報告してください」
「はい。ごめんなさい、知冬さん怖いのダメなんですね」
「べ、別に怖いなんて思ってません。ただ血なまぐさいのが得意ではないだけで」
「大丈夫ですか?辛かったら目を閉じてくださいね」
「辛くない。全然。普通ですよ、こんな程度。……目が疲れて休めるために
少々目を閉じるかもしれませんが」
「はい」

ああ、やっぱ怖いのダメなんだ。血とか出るの嫌いなんだ。

意外だ。

でもちょっと面白い反応。

「…始まるのか」
「はい」

結局お客は志真達以外に4人ほどまばらにすわっているのみ。
会場が真っ暗になって開始のアナウンスが聞こえる。
志真はワクワクするがお隣の彼はそれはもう深い深い溜息をした。

悪かったかな、と思ったので時折目をつぶっていることには言及せず

彼に肩を抱かれ身を任せその手をぎゅっと握っていた。


「何故あんな下劣で野蛮なものに楽しみを見出すのだろうか…」
「あそこまでポイポイ大げさに出しちゃうともうコメディですよね」
「悪趣味なコメディだ」
「知冬さん、…ありがとう。つきあってくれて」

ショックシーンのオンパレードになった時は何度か席を立ちたそうに
腰が浮いてたし、もし出ると言われたら一緒に出るつもりだった。
けど彼は我慢してきちんと一緒に最後まで居てくれた。

「……いえ、…記念、ですから」
「今日のは練習。無しってことで。次はちゃんとふたりで決めましょ」
「……、少し休みたいです」
「お店入る?」
「Oui」

顔色がまだすぐれない彼を連れて映画館を出ると手短に見つけたカフェへ。




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