紳士な婚約者の育てかた
父親の手引で店内に入り、店員さんに気さくに挨拶をして奥の個室へ。
ただただその後についていくばかりの志真となれた様子の知冬。
店内自体シンプルで綺麗だったのに、この個室はまた特別な場所なのか
オブジェも花もどれもすてき。大きくて丸いテーブルがある個室は
バラエティ番組なんかでよく見るけど実際自分が入ると中々迫力があるものだ。
胡弓の音色でも聴こえて来そう。
「コース先に頼んどいたけど、他にも好きなもんなんでも頼んでな」
「は、はい…」
「志真。デザートのページはこっちです」
「うん」
チラっとめくると美味しそうなごま団子の写真。
食べたいと思ったけれど、値段が怖くてみてみぬふりをした。
「乾杯したい所やけどテオ君車やもんな」
「あ、あの。私が」
「ほら。志真、料理が来た」
「はい。とりわけます」
「それは店の人に頼みましょう」
飲めない知冬の代わりに自分が酒の相手をするとか、
次々に出てくる大皿に乗った美味しそうなご馳走を小皿に分けるとか
そういう事をしないとダメなんじゃないだろうかととっさに思った志真だが
全て却下されて、知冬が店員をよんであれこれ指示を出す。
父親は別に運ばれてきたビールをグイグイ。
「それで。どうなっとるんや、ん?」
「汚い箸で志真をささないでください」
「ええやないの。で。どうやテオ君。志真ちゃんは落とせそうか?」
ニヤニヤしながら問いかける父に知冬は無視を決め込む。
「あ、あの。…えっと、順調です。よね」
この空気がたまらず志真が代わりに返事をして知冬の顔を見る。
「だそうです」
だが彼はそっけない返事。
「そうかそうか。フランスはどうも飯も水も馴染めんのやけど、建物は綺麗でな」
「よくテレビで特集されてますよね。教会とか美術館とか街並み。雑貨とか」
「そうそう。たまに会いに行くんやけどね、間近で観ると迫力が違いますわ。
ただお母さんやテオ君からしたらそんなんは日常のもんやろ?
俺ばっかりリアクションするもんやから、呆れられてしもてしまいにはもうお前1人で
何処へとでも行って来いと言われて。何しに来たんやらで悲しいもんですわ」
「私は海外は一度もないのでお義父さんと同じリアクションしちゃいます」
「気をつけんとテオ君冷たいから置いて行かれんようにせんと」
「はい」
それはもう、よく分かってます。
「変な話をしないでもらえますか。
志真を置いては行かないし、そもそもそんな場所へも連れて行かない」
「え」
「そうなんか?」
「家の近所で十分」
「……家の近所…?」
フランスへは長期休暇を取れたら行きたいと思っていたのに。
彼の家にも行ってみたい、アトリエだって作品だってみたい。
エッフェル塔見たい、凱旋門みたい、クロワッサン食べたい
雑貨を見て回ってパリジェンヌごっこしたい。
ワクワクしながらグルメや観光本を買い込み勉強したのに
どうしよう、彼氏が家の近所しか案内する気ないですって。