紳士な婚約者の育てかた


「ほら。志真。休憩。休憩」
「…や、…休めない…ですっ」

ベッドでギュッと抱きしめられて、そんなガッツリ休めるような
そんな太い神経は持ってない。
軽くおでこにキスをされても無防備でいられるような人間でもない。

だけど抱きしめられた腕からは逃れられないし、そのつもりもなくて。
されるがままに知冬の胸の中でうっとりとしている自分。

「残された時間は僅かだから。出来るうちに出来ることをしないと」
「…知冬さんわざと変な言い方する」
「へん?」
「ううん。いい。…じゃあ。…休みますからね」

志真も抱きしめ返して目を閉じる。
心臓の音がうるさくて眠気なんてないけど、目を閉じる。
目を開けている方が余計に恥ずかしくなってくるから。


「知冬さん。休めた?」
「ええ、まあ」
「元は取れたみたいでよかったです」
「志真、不機嫌?」
「別に」

時間が来てホテルを出る。

結局それ以上はなく、平和にシャワーも使わずに終わったけれど。
抱きまくらにされて時間ギリギリまで抱きしめられてて。
それ以上は踏み込まれなかったけれど。
モヤモヤするというか、してやられたというか、悔しいというか。

別にあのまま襲われたかったわけじゃない。と、おもう。

「なら。君にも休んでもらいたいから夕飯は俺が作ります」
「い、いやっ」
「え?」
「そんな事させられません。知冬さんはお仕事もありますから」
「でも」
「大丈夫。それに、貴方にいっぱい私のごはん食べてほしいから!」

貴方に作ってもらったら今度はこっちがひっくり返りそうだから。

お願いします、諦めてください。

志真の言葉に一応は納得したのか頷いてまた歩き出す。
気遣ってくれようとするその気持ちはすごく嬉しいんだけどな。


「今日は何?」
「シーフードカレー!」
「へえ?食べたことがないな。楽しみにしていよう」
「しててください」
「じゃあ、買い物をして帰ろう」
「はい」

まだ恋人として深い体の関わりはなくても
こうして一緒に暮らしていく中での会話があればじんわり幸せ。
こうやって夫婦になっても一緒に買物とかできるのかな。
フランスのスーパーってどんなかな。夜に検索してみようかな。

そんな自分の未来を検索して想像するのは結構スキだったりする。

「それ……入れるの?」
「タコ?どうしようかな。いれようかな」
「……」
「タコはおいといて。イカですよね。イカイカ」
「そうしましょう」



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