紳士な婚約者の育てかた
そのじゅうよん


「テオ君は志真ちゃんを大事に出来てるやろか」
「え?ええ。知冬さんなりに一生懸命私を大事にしてくれてます」

夕食後、知冬は仕事を終わらせるために庭へ戻ってキャンバスに向かう。
片付けをする志真と何やらそわそわしている父親。
志真からの返事に少しうれしそうに笑って返した。

いきなりホテルへ連れて行かれたりベッドに倒されたりはしたけれど

紳士さはキープして、というか我慢してくれている。

申し訳ないくらいに。


「そうか。あの子をつい甘やかしてしもてな。母親は未だに赤ん坊扱いで。
やってもらうんが当たり前になってしもてるから」
「……」

盲目的に息子を溺愛しているというわけでもないようだ。
少なくとも父親は。
こんな、といっては失礼だけど。以外に冷静に物事を見ている。

「知冬は大きい体した駄々っ子な所があるけども、知らんだけで
根はええ子やから。志真ちゃんがビシバシ教育してって欲しい」
「お義父さん」
「このまま知冬とフランスへ一緒に行ってくれるなら、全部ひっくるめて
俺が面倒見るから。…考えてくれへんかなぁ」
「……」
「べ、べつに。無理にとは言わんよ。仕事もあるしな、後でもええんや。
その時だって全面的に支援はする」

それってつまり、知冬の講師としての任期が終わったら志真も一緒に
フランスへ行ってくれって言うことで。要するに結婚してくれと。

自分の気持もふらふらしているなんて、

美人秘書がそばにいるってだけで嫌になった女なのに。

お義父さんはそれでもいいの?こんな私でも。

「……そうだ。前から聞きたかったんですけど。いいですか」
「なんやろ」

明確な返事を避けるように、志真は違う話題をふる。

彼も何か察するものがあったのか、それ以上は追求しなかった。

「どうしておばさんの事をこんなにも良くしてくれるんですか?
生徒さんなのはわかっていますけど、それにしたって」

彼に漏らしたおばさんの一言から始まった志真と知冬のお見合い。
それ以降もおばさんの家を修理してくれたり、お見舞いに行ったり。
ただお世話になった先生というだけではないような。

「ああ。…あはは」

尋ねられちょっと恥ずかしそうに笑う。

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