紳士な婚約者の育てかた
「俺の家は昔からずーっと貧乏やってな。父親の借金も抱えてた。
親が仕事をかえるたんびに引っ越しして、そのせいで俺も白い目で見られて。
それくらいは慣れとったんやけど。ある日、学校で金が無いってなったときに
俺がまっさきに犯人扱いされてな、
昔の学校は殴るんが当たり前やったからそらもうボコボコにされて」
「……」
「皆が見て見ぬふりするか、あいつが犯人に決まってるとまくし立てて。
でも、先生はちがった。先生だけは本気で教師を怒ってくれて、止めてくれた」
「おばさんが」
「きちんと事実の確認もせんとうちの生徒になにしてくれるんや!って怒鳴り散らして。
あんときはまだ若いおねえちゃんやったのに、歳上のそれも男の教師に食って掛かった」
「…おばさんらしい、ですね」
「結局、無くなったんは勘違いやったって事で。無事に話は終わったんやけどな」
「…そうだったんですか」
「先生は後で校長に怒られてたけど、間違ったことは何もしてへん。
ずっとお礼を言おうと思ってたけど、その前にまた引っ越しをしてしもてな。
大人になって見返せるくらいになったらその時こそ先生に恩返ししよう思って」
「それで」
それで、おばさんのためにこんなに一生懸命になってくれたのか。
ずっと彼の言っていた恩人の意味が分かった。
とてもおばさんらしいお話。
「半年くらいしか居らんかったからてっきりもう俺のことは忘れてるかと
思ったんやけど。名乗ったらバッチリ覚えててくれて、やっぱり先生にはかなわん」
「そりゃ、おばさんは筋金入りの教師ですから」
「先生のもとにおらんかったら俺はあのままやさぐれて根性も曲がってしもてた。
必死に働こうとも思わんと、シモーヌとも出会えんと、知冬も生まれんかった」
「それは困ります。とっても」
「これも運命やね。…志真ちゃんなら、きっと知冬を大事にしてくれる」
「…はい」
「知冬もする。浮気はせんと思うんやけど、どうやろうなあ」
「ええ!?す、するんですか?知冬さん。そ、そういう過去が」
「あったようななかったような」
「ええ!?」
「あはは。冗談やって。そんな話し聞いたことないわ」
あったら困る。心から困る!
最近フランスのことを知ろうと新しいパソコンで日夜検索しており
フランス人は自由恋愛してそうとかそんな勝手なイメージが
頭のなかでぐるぐるしているのです。