紳士な婚約者の育てかた
「行くしか無いでしょ。仕事なんていいじゃない」
「……」
「生活は保証されてるんでしょう?言葉なんてなんとでもなるわ」
「…そ、そうですよね。やってみないとわからないですよね!」
悩んでいるよりもうさっさと決めちゃって知冬と一緒にフランスへ行く。
遠距離恋愛も考えたけれど、やはり今の気持ちは彼と離れたくない。
ずっと側に居たい、と思っている。鈍い志真でもそこはしっかり自覚もある。
ただ、行動力がなくて。自信もなくって。臆病なので。
これがおばさんや母親だったらちがったんだろうけど。
いや、私だってちゃんと一族なのになんでこんなダメなの?
「そうよ。それで挫折しても嫌になっても離婚したって慰謝料ガッポリ」
「そんな……。…でも、本当に私なんかが画家さんの奥さんになっていいのか」
「でもお互いに愛し合ってるわけでしょ?婚約するくらいだから」
「はい」
「じゃあ何も迷うことはない。行きなさい、山田さん。そして、イケメンを私に紹介して」
「あ。あの。良かったらスペイン人の方で彼女募集中の方が」
「見た目、年収、性格、女グセ、酒癖、ギャンブル依存度」
「……」
「よろしく」
先生、怖いです。目がマジ過ぎて怖いです。
とりあえず見た目は素敵で筋肉質でサラリーマンだそうですと答えておいた。
「志真。珍しい、君が俺に手を振るなんて」
「私たちのことを話したら信じてもらえなくて。それで」
「なぜ?」
「接点がなさすぎるからだと思います」
放課後、待ち合わせた駐車場に先に到着したのは志真。
コソコソと身を隠しながら待っていたら知冬が来て、彼のクルマに乗りこむ。
学校を出てしまえば何も気にしないでいい。いや、学内でも堂々としていいはず。
犯罪を犯しているわけではないのだから。
「よく分かりませんが、少しうれしかった」
「私も。知冬さんが笑って手を振り返してくれてちょっと嬉しい」
「志真」
「……ノロケすぎかな」
新野先生はちゃんと相談に乗ってくれて、その半分はノロケへの説教だった。
真面目な気持ちだったのだが人からすると完全なノロケ。
若干の興味を示したのでフェルナンドの写メを送ることになった。
「今日は真っ直ぐ帰る?それとも買い物?」
「帰りましょ。ほら、お風呂直してくれる業者さん今日から来るって言ってたから」
「ああ。そうだった」