紳士な婚約者の育てかた
そのじゅご

壊れて長年放置されていたボロボロのお風呂はリフォームが始まり

私は知冬さんとフランスへ行く決心をした。

金曜日夜、その報告を両親にすべく家に帰る。

知冬さんにはその後に話をしようと、家に行くので夕飯は少し待って欲しいと伝えている。
恐らくはワインとおつまみでのんびりやっている事だろう。彼も絵の仕事を昨日終わらせ
図書館へ納品してきたらしくとても気分が良さそうだった。


「いきなりで悪いんだけど、一緒に病院へ行ってくれる?」
「え?」
「おばさんの容体があまりよくないみたいで、…もしかしたら今夜」
「そんな!」

どう説明しようかと浮足立って玄関を開けたら母親がやや顔色悪く出迎える。
といってももう出て行く準備を終えた所で志真の顔を見るなりそのまま家を出る。
父親は後から来るそうなのでまずは志真と母親だけ、おばさんが入院している病院へ。

手術は成功し、容体も落ち着いてきて。

お風呂のリフォームが終わる頃には戻れるんじゃないかと話していた矢先。

「ごめんね、何か話があったみたいだけど」
「いいの。今はそれよりもおばさんの様子が心配」
「そうね。…でも、何があってもおかしくはないわ。そだけは覚悟しておきましょう」
「……」

身近な人の死というものは祖父母で経験しているけれど。
慣れることなんてできるはずがなく、何時だって悲しくて泣いた。
おばさんとはそう密な関係があったわけでないけれど、
子供の頃から大人になった今も大事に見守って貰っている。

やっと人生が明るく希望に満ちてきたというのに。

それを少しでも見てもらえないなんて辛い。


「ご家族の方ですか」
「はい。どうでしょうか、容体は」
「一時は意識不明で集中治療室へ入りましたが、今やっと落ち着いてきた所です。
ただ、それがずっと続くかは……申し訳ありませんが、断言はできない状況下です」
「分かりました。ありがとうございます」

病院へ到着し、駆け足でおばさんの入院している棟のナースステーションへ。
見てくれている医師のもとへ向かうと相手も緊張した面持ちで答えてくれた。

今すぐにというわけではないけれど、これからもまだどうなるか保証はない。

やっぱり覚悟しないとダメなんだ。

「……どう、しよう」

こんな状況の中で私だけ知冬さんとフランスへ行くなんて言っていいの?

私を大事に思ってくれた人が大変な時に。

何時終わるともしれない危機を……。


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