紳士な婚約者の育てかた
「杏仁豆腐嫌い?」
「ううん。好き」
「……」
「好物です」
「じゃあそれも頼みましょうか」
「…ごま団子も結構好物」
「ではそれも」
延々と料理が運ばれてきてテーブルに一杯になって、最初こそ遠慮して少しずつ
食べていた志真だったがそれでは追いつかなくなってきてモリモリと食べ始める。
もうここまで来たら後で何が待っていようともお腹いっぱいに幸せになってやる。
「どんどん頼んでな。…ああ、そうそう。お母さんがまた来るって言うてたよ」
「そうですか」
「前回は志真ちゃんを見に来てすぐ戻ってしもたけど。今度は暫く滞在する気らしい」
「……」
「大丈夫や。志真ちゃんとの間に割ってはいらんように何時ものホテル手配しとるから」
「お義母さんが来日するんですね。私もご挨拶しないと」
知冬の母親は志真と知冬の見合いをどこまで知っていたのだろうか
初めて顔を合わせた時は言葉が不自由なせいかそれほど交流は持てなかった
第一印象は悪くなったと思う。思いたい。
志真と知冬の出会いは志真のおばさんと知冬の父が先生と教え子だったという
接点から始まっている。何故そこまでしてくれるのかは志真にも母親にも分からない。
父親はよくおばさんを「恩師」といっているから何かあったのだろうとは思うが。
「また4人で飯でもしましょか」
「はい」
「志真ちゃんは先生に少し似てるなあ」
「え。そう、ですか?」
「若いころの先生。とびきりの美人ちゅうわけやなかったけど。明るい元気な先生やった」
「誰に聞いてもそう答えてくれます。よほど元気だったんですね」
子どもが好きで、間違った事は許さず、逆境に屈しない強い意思を持つ人。
志真とは真逆で同時に羨ましいと思っている。それがあればもしかしたら
勉強が微妙でも努力を重ね、志真だって教師になれた。かもしれない。
無理とは思いつつ、何でもっと努力しなかったのかと思わないこともない。
最近特にそう思う。
「志真ちゃんは先生してるんやったっけか」
「いえ。…私は、事務職員をしています」
「そうか。大変やね」
確かに大変。だけど、先生と比べるとまた少し違うんだよな。
おばさんの先生時代の話は聞きたい、けど先生の話題は心が痛い
出来たら違う話にしてほしい、けど興味はあるので途切れさせたくもない
面倒だけど、それが志真のこじらせた教師コンプレックス。