紳士な婚約者の育てかた

今日は母がおばさんに付き添うことになり、志真は帰宅する。
すっかり意気消沈して玄関前でため息をして。

「どうした?元気がない」
「…知冬さん」

リビングでパソコンに向かっていた知冬の顔を見ると
ほっとする反面、思い出したのか悲しくなってきて彼にギュッと抱きつく。

「志真」
「ごめんなさい。遅くなっちゃって」
「事前に聞いていた事ですから気にしないで」
「おばさんの容体が良くなくて」
「……」
「もう、覚悟を決めないといけないかもって」

でもそんな覚悟いきなり出来るわけないじゃない。
子どもじゃないのだから駄々をこねたってどうしようもないことは
分かっているけれど、だけど、やっぱり辛くて。どうにかしたくて。

「おばさんは強い人なんでしょう?」
「……はい」
「だったら信じましょう」
「知冬さん」
「それでもし、悲しい別れになっても。君は強く生きることが大事だ」
「……強く」
「彼女は君の幸せを強く望んでいると思う」

志真の幸せ。

そうだ、おばさんは言ってくれていた。幸せになって欲しいって。
その為にお金を残し素敵な人を引きあわせてくれて。
彼との生活をする家を貸してくれている。この辺は微妙に曖昧にしてるけど。


「…あ。そ、そうだ。ご飯まだですよね。すぐ作りますね」
「食事なら出来てます」
「知冬さん作っちゃった!?」

それは今のこの落ち込んだ心に追い打ちなんですけどもっ。

「さっきまでナンドが来ていて。アイツが作って行きました」
「わ。フェルさんの手料理」
「俺がするから邪魔するなと言ったのに、君は座っているのが一番いいとか言って」
「ナイスフェルさんっ」
「え?」
「い、いえ。食べずに待っていてくれたんですね、ありがとう知冬さん大好き」

どんな料理を作ってくれたんだろう。彼の料理は大変期待できる。
志真は台所へ向かうと食事の準備だけでなく整理整頓された部屋にびっくり。
フェルナンドは大雑把そうに見えて結構綺麗好きで世話好きらしい。

忙しいからって朝の片付けをしないで家を出たのがバレて恥ずかしい。

鍋には美味しそうな匂いの煮込み料理。フライパンには具だくさんのパエリア。

「……これくらい俺だって」
「いいの。知冬さんは食べる専門で。たまーに一緒に何か作りましょ」

志真が盛りつけてもプロの料理に見えてしまう彼の腕前にどうしても
テンションが上ってしまう。それが気に入らないようで不貞腐れる知冬。
なだめながらもかなり遅い夕食をとった。

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