紳士な婚約者の育てかた

一緒にフランスへ行こうとしていたことはもともと彼には伝えてなかった。
だから、まだこれは志真の中での出来事。何も言わなければいいだけ。
食事を終えて片付けをしながらぼんやりと考える。

せっかく煮詰めて煮詰めて、

新野先生を巻き込んでまで気持ちを奮い立たせたのに。

結局私はこうなっちゃうんだよね。

何時になったらすんなりと物事が運ぶようになるんだろうか。


「……志真?」
「たまには知冬さんの膝に座ってもいいでしょう?」

台所の作業を終えてリビングへ戻るなりパソコンに向かっていた彼の膝へ。
普段極力彼に近寄らなようにしている志真がそんな事をしたから
知冬は少し驚いた顔をしたけれど、すぐ抱きしめられた。でも視線はパソコン。

「実は秘書から山のように催促のメールが来ています。任期は月末までですが
もう切り上げて戻ってきて欲しいと」
「じゃあもう帰る?」
「出来ればもう少し志真と居たかったけど、仕方ない」
「……」

最近やたらパソコンを見ていると思ったらそういうことか。
仕事のオファーが溜まってきていて、
知冬も目を通しては居たようだけど戻ってからでないと
お仕事は出来ないわけで。秘書は苛立っているようだ。

おばさんも知冬さんも遠い所へ行ってしまうの?

「志真?」
「知冬さんは立派な画家さんなんですし、こんな日本の学校なんているよりも
戻ってお仕事を再開したほうがいいです」
「……」
「目的はもう果たしたわけですしね」

私はどっちかを選ばないといけないとしたら。

「……君は、来てくれない?」
「……」
「俺と一緒にフランスへ行って欲しい」
「知冬さん」
「大変な時なのは分かっている。…けど、今ここで君と離れたら」
「……」
「君の場合中々フランスへ来てくれ無さそうだ」
「そ、そんなめんどくさがりじゃないですから!行くときは行くから!」

そりゃ確かにきっかけがないと行きづらいかなとは思うけれど。
知冬さんもそんなはっきり言わなくたっていいのに。

「じゃあ今行こう」
「……知冬さん」
「君と離れたくない。志真が居ないなんて我慢できる気がしない。辛い」
「……」

私だって辛い。離れたくない。側に居たい。

どうしよう。

こんなとき。

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