紳士な婚約者の育てかた

結局その日は返事を出来なくて。曖昧に切り上げてしまった。
翌朝は特に何もその話題にはふれず、いつもの様に学校へ。
そこではもうテオ先生と事務員という役割で接点が無い。

唯一知っているのは新野先生だけ。

また昼休み相談してみようかな、でも彼女ならついていけと言うだろう。


「どうした。元気ないな」
「…西田先生」

朝の職員会議を終えてそれぞれがせわしなく動きまわる中。
志真がちょっとだけぼんやりしていると声をかけてきた。
この人は何時もそうだ。
元気がない時とか困っている時はすぐ声をかけてくる。

「調子悪いとかじゃないよな」
「そうじゃないんですけど。…おばさんの容体があまり良くなくて」
「沙苗先生、手術成功したんじゃなかったのか」
「そうなんだけど。やっぱり、歳も歳だし」

彼も当然のようにおばさんのことは知っている。
どうも彼の親が生徒だったらしい。
小学生の頃そんな話を遊びに行った時に聞いた。

「だからってお前がそんな落ち込んでも仕方ないだろ。老けるぞ」
「……ほっといてください」

悩んでるのはそれだけじゃないんだから。言えないけど。
チラっと視線を向けたら知冬は職員室にはもういなかった。
授業の準備に行ってしまったのか、それとも校長に話をしているのか。

どちらにしろ彼は今週にはフランスへ帰る事を伝えると言っていた。

「あの先生と喧嘩でもしたか?」
「え?」

いきなりそんなことを言うから反射的に彼の顔を見上げる。

「そんな感じだな?」
「な、なんで?え。せ、せんせいって」
「落ち着けよ。…お前、あのテオさんと付き合ってるんだろ」
「……新野先生っ」

黙っててって行ったのにっ。

「別に誰に聞いたわけじゃない。そうだろうなって思っただけ」
「……」

そうだ、雑な体育会系のくせに昔からカンは鋭かったよねこの人。
でもいくら鋭くても接点が無いのによく分かったな。

「何で分かったかって知りたそうだな」
「う、うん…なんで?」

もしかして人からみたら分かりやすいサインでもだしてたろうか?

「そりゃお前。いきなり放課後呼び止められて志真に近寄るなとかガン飛ばされたら」
「知冬さんっ」

犯人は貴方ですか!何をいってるんですか既婚者に!

「まあ、俺も負けずに嫌だと返事してやったがな」
「貴方も何でそんな天邪鬼してるの?既婚者だって言えばいいのに」
「分かってないな。そんなの関係なくお前に近づいてくるのが嫌なんだろ」
「……」

子どもっぽいけど、でもすごく知冬さんらしい。

「ただの鼻につく外人野郎かと思ったら普通だったな」
「ひど。先生のセリフじゃないですよ」
「生徒相手じゃないからな。ま、仲良く喧嘩してたらいいんじゃないか」
「先生は色んな意味で彼に近寄らないで」

絶対喧嘩を売って余計炎上させるから。
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