紳士な婚約者の育てかた
「ねえ、聞いた?テオ先生まだ契約途中なのに帰っちゃうって」
「聞いた。職員室でそんな話してたらしいって…本当なの?」
「嘘でしょ…来たばっかりなのに!まだ全然話しできてないし」
「まさか校長が首にしたとか?」
「信じらんない!あり得ないから!どうする?抗議しに行く?」
まだ正式な話ではないのにもうすでに生徒たちの間で噂になっていた。
なんて情報網、迂闊なことを言おうものならあっという間に知れ渡るんだ。
知冬さんと婚約してる事がバレたら慕っている生徒や狙っている先生方に苛められそう。
なにせ彼は皆のアイドルなわけで、それを1人が独占するのはズルいわけで。
「でもあくまでそれはテオ先生だから。…知冬さんじゃない」
「どうしたの山田さん」
お昼休み、ざわめく生徒たちの並をかいくぐり保健室へ。
もうすっかり志真がここに来るのは定番になっていて、
新野先生はいつも通りに出迎えてくれた。
「いえ。あの。…どう思います?」
「どうって。私が言う言葉はわかってるはずでしょう?」
「……ですよね」
そして自分の今置かれている状況を説明。
やっぱり彼女の答えは志真が想像したものと一緒。
幸せに突き進めと、共に手をとって歩めと。
「それによ?先生が現地の女とデキちゃっていざ後から追いかけたら
もう結婚しちゃったとか洒落にならないじゃない?」
「そ、それは無いです。知冬さんはそんな人じゃ」
「そこは神様でもわからないのが男女なんです山田さん」
「……」
「もちろん、結論を出すのは貴方だけどね?」
知冬さんに限って。でも、その言葉に思い出したのは彼の美人秘書。
駄目だ駄目だと思いつつもつい夜フェイスブックを見てしまった。
女優さんのように美しい女性。知冬らしき男性の後ろ姿もちらほら見えた。
仲が良さそう、いや、悪かったら秘書なんてできないものね。
彼を疑う訳じゃないけど。
不安になったのは事実。
「志真。今日は何だかよく人に話しかけられる」
「そりゃ、もう知冬さんがフランスへ帰っちゃうって皆わかってるから」
「話した?」
「私がそんな事言うわけないじゃないですか?」
放課後、何時もは同じくらいの時間に集合できるのに今日は知冬が遅かった。
志真が車の側で待っていると足早にやってきて逃げるように車を出す。
どうやらついさっきまで生徒たちに囲まれて質問責めだったらしい。