紳士な婚約者の育てかた
「お母さんちょっと先生と話をしてくるからちょっとだけここにいて」
なんとも言えない気持ちになって、言葉がうまく出てこなくて。
志真はただ頷いて母を見送る。
独り身で兄弟も他界しておりおばさんを引き受けてくれる身内は居なくて、
手続きを何もかもやっているのは母親。父もある程度の手伝いはするけれど
やはり相手が母方の女性だとやりづらいようで、あまり表立っては動けない。
「……お母さんを置いて行っていいのかな」
母が介護とかするのかな。ヘルパーさんを頼むとか言ってたけれど。
志真は眠るおばさんを見つめながらずっと静かに考え込んでいた。
「どうだった?」
「うん。意識は戻って声に反応もしてくれた」
「そうか。よかった」
学校に戻ると心配そうに声をかけてくる西田。
彼も自分の子どもが生まれる月とあって何時も以上に電話を気にしていて
何かあればすぐに家に帰って奥さんをみている。
「……うん」
「どうした。元気ないな。意識が戻ったならもっと喜べよ」
「そうだけど。…そうなんだけど、…複雑で」
幸せになりたい。でも、このままでいいの?と何かが言う。
「お前なりに何か悩みでもあるんだろうけど、煮詰めたってどうせ何も出ないよ」
「どうせ私じゃちゃんと結論出せないですよ」
「そうそう。で、俺や親に答えを聞こうとするじゃないか」
「……決断力が無いのは自覚してる」
優柔不断なのも。
「なんなら俺が決めてやろうか?」
「……」
「どうだ。自分で決められないんだろ。何かは知らないけど」
「知冬さんとフランスへ行くか。それとも、残るか」
「……」
「そ、そんな呆れた顔しないで」
誰が聞いたって一緒に行けって言うのはわかってる。けど。
「そんな急がなくてもフランスは消えないだろ。しっかり沙苗先生と話をしてから行け」
「え」
「曖昧なまま行ってくよくよ悩んでもすぐには戻ってこれない場所なんだからさ。
だったら悔いが無いように日本でやることやってから行けばいい」
「……」
「それとも。アイツが好きで好きでほかはどうでもいいってなら」
「だったらこんなに悩んでない」
「だろ?」
「……、…参考にする。ありがとう、健ちゃん」