紳士な婚約者の育てかた
「志真?」
「……」
「……、…志真」
「……」
「そんなに俺が風呂にはいるの見たい?」
本日の仕事を終えて帰宅し、さっそく新しく生まれ変わったお風呂にお湯をはって。
お疲れでしょうからどうぞお先にと知冬に行ってもらって。そこまでは覚えていた。
のだが、気づいたらそんな彼をどうどうとドアを開けて見つめている自分。
明らかに変態さん。見られている知冬も微妙な顔。
「見てる…」
「……、そう」
知冬はそれだけ言うと視線をそらし黙ってしまう。
「……湯加減いい?」
「いいですよ」
「……そっか」
「……」
「……」
お風呂につかっている知冬。それをぼんやり眺めている志真。
盛り上がるわけでもなくただ静かな時間だけが流れて。
なんとも言えない、変な空気。
「……知冬さん」
「はい」
どれくらい沈黙だったか分からないけれど、ようやく志真が切り出した。
「私、まだ貴方と一緒には行けない」
「……」
「誰かに止められた訳じゃない。私が今のままでは行けないと思ったから。
おばさんも心配だけど、1人で全てを任されている母が心配なんです。
父もいるし、私にできることなんてないかもしれないけど」
「……、わかりました」
「必ず貴方の元へ行くから」
「そうでないと困る」
もしかしたら彼もそんな返事が来ると思っていたのかもしれない。
一瞬、とても残念な顔をしたがすぐに元に戻った。
知冬を愛しているし、出来ることなら一緒に付いて行きたいけれど。
やっぱり自分は親の元でぬくぬく生きてきた人間。
あっさりと親を切り離すなんて、出来そうにない。
「知冬さん。も、もう、…気にしないから、その、……良かったら、…え、えっちしよ」
「じゃあ」
「わーーーーー!待って!待って!立たないで!」
「流石にまだ勃ってませんけど?」
「え?……いや!その勃つじゃなくて!座って!」
そんなやる気満々になられると困るんですけど。
こっちは初めてですし。
「今夜…いい?」
「は、はい。……知冬さんが向こうで浮気しないように」
「え?」
「ううん。…あ。あの。が、がんばる」
おばさんの家で初体験というイマイチ盛り上がりにかける展開だが、
今からホテルに行こうなんてもったいないことをしたくないし
この人がそれを了承するはずもない。
知冬はその言葉を聞くやさっさと風呂からがって、志真が入れ替わりに入る。
いくら覚悟を決めたからって流石にいきなり混浴は無理です。