紳士な婚約者の育てかた

どうも自分だけ満足して先に寝たらしい。記憶に無いわけだ。

それじゃ知冬さんが怒るのは当然で、ただ謝ることしか出来ません。
もう時間が残されていないというのにこんな険悪なままは嫌だ。
何とか機嫌を取り戻そうと甘い言葉をかけてみるけれど、まだちょっと不機嫌。

「……そろそろ起きましょうか」
「知冬さん」
「もういいです」
「……」
「場所をかえましょう。違う場所で」
「はい。こ、こんどはちゃんと寝ないから!…ね?」

何とか抱きしめてキスをして貰えるくらいには機嫌は回復し朝の準備。
こんな失敗をするのも自分が知識と経験不足だからなのだろう。
新野先生に相談しようか、いや、こればっかりは聞いたって仕方ない。

自分自身の力でやらなければ。


「先生行かないで!」
「残ってください先生!」
「校長に直談判してきたんです!」
「先生からの話だって聞いて…でもまだ契約期間あるんですよね?」

学校ではテオ先生をフランスへ帰らせまいと必死の抗議活動をする生徒たち。
数名で校長へ怒鳴りこみに行き、今までの美術教師にも文句を言いに行き、
とにかくアグレッシブ。彼女らの言い分は「せめて期間まで居てください」とのこと。

「すみません、仕事が入ってしまったんデス…」

だがテオ先生はいつもの様に明るい笑みを浮かべ、それを断固拒否。
残る気はさらさらないことを生徒たちにアピールしている。
それでも彼女らが落ち着く様子がないのだから、もうこれは憧れというより崇拝だ。

「暴走しすぎじゃない?あれはもう狂気に近いわ」
「そ、そうですね」
「止められそうにないんですか?」
「お仕事溜まってるみたいだから。仕方ないです」

それに当初の目的は別に講師になることじゃなくて、自然に志真に近づく事。
本来なら婚約までした時点で講師を続ける必要性は無かったわけで。
無理をして志真の側に居てくれたのだと思うと、やっぱり嬉しいというか。

そして、昨日の失態は痛かったというか。

「そっか。そうよね。テオ先生、画家だものね」
「はい」

今日絶対に取り戻さないと。



「……はあ、鬱陶しいガキどもだ」

放課後、やっと生徒に開放された知冬。さっさと帰る準備をして駐車場へ。

「……」
「志真?…何を読んでますか?」
「あ!…あ」

車の側で何やらコソコソとしている人影。近づくとそれは志真。
でも何かを読んでいてそれに夢中で気づいてない。

「…初めてのセックス?」
「……」
「……」

知冬が覗きこんだらイラストの男女があらぬ行為をなさっている最中。
普段の彼女なら絶対に手には取らない部類の本であることは確か。

「……り、…りべんじ」
「リベンジ?」
「うん」
「……するんですか?」
「…うん」
「本気ですか」
「うん」
「……、…とりあえず行きましょうか」
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