紳士な婚約者の育てかた
そのじゅなな

「……っ…っ」
「…志真」
「だ、大丈夫っ…だからっ」

皆やってることだから。今時、学生だってやってることだから。

怖いとか無いから。

はじめてでちょっと戸惑ってるだけだから。

「……」
「あっう、う…っ…うっ」
「志真」
「うーっ」
「ごめん、まだ何もしてない」
「……えっ?えっあ。そう?…はは」
「場所が違うほうがいい?」
「ううん。ここで。…大丈夫だから。知冬さん」

いつの間にか知冬さんも上着を脱いでいて手を伸ばすと彼の胸に触れる。
ただそれだけなのに心臓がドキドキとして体が熱くなって、パニックになりそう。
なんて、初心者まるだしの反応をするのだろうか。

ちょっとくらい余裕をみせたいのに。これじゃ相手も面倒になって嫌になるよね。

「可愛い志真」
「え」
「面白い反応。…もっと色々と触れてみたくなる」
「……触れて」
「もちろん」

まだ大丈夫っぽいのでここぞとばかりに甘えた声を出して、キスをする。
もうとにかく彼に身を任せるしかない。



「……朝だ」

ぼんやりとした意識が少しずつ明確に復活してくる。と同時に周囲を確認。
1階の何時も知冬が寝ている場所。下を見ると全裸の自分。隣には知冬さん。
彼も恐らくは裸と思われる。これは、つまり、初えっちの後というやつ?

その間の記憶がないのは気をはり過ぎたからかな?

「……」
「知冬さん。朝ですよ」
「……朝、ですか」
「そうそう。朝」
「ご機嫌ですね」

隣で寝ている知冬を起こそうと彼の頭をなでながら呼びかける。
こんなに気分が軽いのは脱処女という峠を越したという安堵からだろう。
知識は乏しかったが思ったよりも簡単だったんだな、とすら思っている。

「そうですか?」
「……」

素肌のまま、ギュッと抱きしめてくる知冬。
前なら逃げたかもしれないけれど今はなんてことない。

「…知冬さん」

だってもう私たちは一線を越えたわけで。

「まさか君が前戯だけでイって寝るとは思わなかったので、かなり不満なんですが」
「え?…前戯って何?…私、途中で寝ました?」
「君は酷い人だ。男をその気にさせた瞬間に逃げたんですから」
「……」
「寝ている君に挿れても面白くない」
「……」
「朝イチでやる気も起こらない」
「……」
「萎えます」
「……ごめんなさい」

あ、まだ超えてなかった。片足突っ込んだだけだこれ。

「……」
「知冬さん…ね。…えっと。…ごめんなさい」

< 81 / 102 >

この作品をシェア

pagetop