紳士な婚約者の育てかた

体を洗って、お風呂に入る。それも知冬さんの膝に座って。
交際を始めてキスは普通に出来るようになったつもり。

「ぶぇっ…っ」
「…どうしたの」
「……ご、ごめんなさいいきなり舌が」
「入れない方がよかった?」

だけど、そういうのはまだまだ経験がありません。
ぬるっとした感触が口内でしてすごい顔をして逃げる。
知冬はびっくりしたような顔で見つめているけれど。

「あ…う、ううん。……あ。あの。うん。後でね。後でして」
「わかった」

今のは不味かったかな。怒ったかな。でも、続けるなら布団でしたい。
あと心臓がヤバイくらいドキドキしているのであっという間にのぼせそう。
ゆっくりと肩までつかって温まってのんびりする、なんて出来そうにない。

まず彼氏の膝に座っている時点でそんな余裕は無いわけだけど。


「……帰り日にちも時間ももう決まっちゃった感じですか」
「そうですね。秘書が思いの外すぐに手配をしたので」
「そっか」
「そうですよ。…ね、志真。まだ、……まだ、君を口説いても」
「だめです。それだけは。…かわれません」
「……そう、ですよね。すみません」

軽いキスを頬にして。そろそろ出ましょうかと知冬に囁かれる。
彼に申し訳ないというきもちと、でも残らなければという意志と。
せめぎあって、複雑な気持ちになって。

あと、お風呂出たらこれって自然な流れでソウイウコトになりますよね。


覚悟はもうしてたけどやっぱりいざとなると恥ずかしい。


「……知冬さん」
「はい」
「……ごめんね。でも。…大好き」
「それはとても嬉しいですが、まだ寝室じゃないですよ?
もしかしてここからもう既に始まってますか?じゃあ下着を脱」
「がなくていいから。いいから。先に行っててください、準備して行きます」
「女性は大変ですね」


でももう既に一緒に暮らしてて色々と恥ずかしい素を見せているのだけど。

一生じゃないにしろ、それが一時でもなくなるっていうのはきっと


寂しいんだろうな。


今夜はいっぱい甘えて、大人の女にならなきゃ。

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