紳士な婚約者の育てかた
そのじゅうはち

「ほんとうに。すいません。申し訳ありません。反省してます」
「いえ。別に」
「……」
「そんな泣きそうな顔をしないでください。別に怒ってはないです」
「……ほんとに?」
「本当に。日が経てば治るものですから」

ただいま深夜2時。
全裸の男女が布団の上に座って、深刻な顔でお話中。
特に女、志真はペコペコと相手に頭を下げて謝っている。

原因は知冬の背中についたひっかき傷。

彼に抱きついた時に無意識にやってしまったらしい、そんな猫じゃあるまいし

まさかとは思ったけど。何となく触ってみた感触が傷になっていて。

カーテンを少しあけて月明かりに照らしたらくっきりと。彼の背中に赤い線が。

「は、初めてで…たぶん、緊張したんだと思います…」
「それにしては慣れた感じで俺を受け止めてくれて」
「そ、そんな事ないです!おもいっきり初心者なんです!ペーペーなんです!」
「それくらい俺を信じてくれたんだと思ったんですが。違いましたか。すいません」
「いえ。…あの、はい。信じてます。知冬さんのこと」

怖がりな初心者である志真を気遣ってとっても優しい甘い初えっち。
これで大人の女としてやっと一皮むけた。はず?でもあまり自覚がない。

「そうですか。よかった。じゃあ、寝ましょうか」
「……はい」
「下着は着ておいたほうがいいですよ、今日は少し冷えそうだから」
「はい」
「でも、志真。君は俺が想像していた以上に」
「寝ましょう」
「はい」

想像とかしないでください恥ずかしいから。




「……ん。もう朝か。……まだ眠いなぁ」
「眠いですね」
「あ。おはようございます。知冬さんは朝強いからいいなぁ」

こんな日でもやっぱり目覚ましより早く目がさめる。でもまだ起きるには早い。
目を閉じたまま、布団の中でモゾモゾしていたら耳元で声がした。
そうだ、私は彼と一緒に彼の布団で寝たんだった。

「そんな事はないですけどね。……おはよう志真」
「んー……知冬さん。……あ。そうだ。背中ちゃんと見せて」
「え?ああ。…どうぞ」

起き上がって彼の背を明るい光のなかで確認。

「……はあ。ほんとなんでこんなことしちゃったんだろ」
「あとが消える頃に君がフランスに来てくれるといいけど」
「じゃあもっとガッツリと背中の肉をえぐるくらいに付け直していいですか?」
「君はフランスに来るのが嫌なんですか?」
「そうじゃないけど、念の為に」
「何のために?」

これくらいの傷なら一週間くらいで消えそうなんで。

とか言ったら怒られそうなので笑ってごまかしておいた。

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