紳士な婚約者の育てかた


両親にはまだ言えないけれども、何れはそうなるものなんだし。
法律に反することでもないんだし。これで晴れて大人の女になったわけで。
これって周りにはバレバレだったりするんだろうな。

「山田さん、何かいいことあった?」
「え!わ、わかります?…えへへへ」

ほらきた。やっぱりちょっと変わって見えたりするんだろうか?

「あ。もしかして」
「はい」
「宝くじ当たった?」
「……いえ、…くじは買ってないです」
「あそう」

そうでもないのかな。

「あ、あの。新野先生」
「おはよう山田さん。どうしたのそんなニヤニヤして」
「えへへへ」
「……あ。もしかしてテオ先生と」
「えへへ」
「フランス行く気になった?よかったわね。それが一番いいのよ」
「……ちがいます」

もしかして誰も気づいてないの?変化とかないの?大人の女になったのに?
あれ?新野先生なんかえっちしたら一皮むけるって言ったのに気づいてないですよ?
だからって声に出して言うことでもない。そんな変態じゃない、私は。

「どうかしましたか?」
「……ううん。…ない」

意味もなくウロウロと歩いてみたけれど誰一人何も言ってくれない。
唯一、あの体育会系教師には「邪魔だ」とツッコミをいれられたくらい。
何かが変わるはずだったのに、結局何も変わってなかったのかな。

寂しくなってきて昼休みの美術準備室に忍び込み知冬の背中に顔を埋める。

彼はキャンバスに向かって何か作業をしていたが構わずに。

「……生徒が何名か見送りに行きたいと言ってきました」
「え」
「断りました。空港には、志真だけでいい。両親も要らない」
「……」
「志真。……帰る日まで、ずっと一緒に寝てくれませんか」
「うん。寝る」
「よかった」
「知冬さん」

何で帰っちゃうんだろう。何で彼はフランスが本拠地なんだろう。
日本人の血も入っているんだから日本でもいいのに。
なんて、わがままだ。
私はただでさえ自分のわがままを彼に聞いてもらっているのだから。

「ありがとう……俺の志真」
「……」
「でも、そんなにぎゅっとされると俺も男なので気持ちが盛り上がってくるのでそろそろ離れたほうが」
「すいません」
「まあ、ここで昨日の続きをするのも悪く無」
「悪いです極悪です」
「そう?じゃあ、諦める」
「……拒否しなかったらする気だったの?」
「ええ。俺は君の誘いなら何処でも拒みませんから」
「……も、もう」

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