紳士な婚約者の育てかた

何かしなきゃと焦ってみても結局何も出来ないまま時間だけが過ぎていく。
知冬さんは私の気持ちを汲んで強引に連れて行こうとはしないけれど、
その言葉の節々に連れて行きたいという気持ちが強く感じられて、余計申し訳ない。

「志真ちゃん、ごめんなさいね。心配をかけて」
「ううん。おばさんが元気になってくれてよかった」
「何とかこっちに戻ってこれたけど。あま、おばさんももう歳だから」
「そんな事言わないで」

今日は仕事が終わった後におばさんの入院している病院へ向かった。
両親同様に全てを話したわけではないのでただ当たり障りなく。

「知冬さんとは上手く行ってる?」
「うん。…でも、週末にはフランスに帰っちゃうんだけど」
「週末って。明日じゃない!こんな所に居ないでデートでもしていらっしゃいな」
「そう。なんだけど。……でも、一緒にいると余計に寂しくなりそうで」

あとデートしなくっても一緒に住んでるから大丈夫なのおばさん。

「志真ちゃんは行かないの?」
「まだ。ほら、仕事の引き継ぎとかあるし。もう少ししてから行く予定」
「そう。…志真ちゃんには幸せになってほしいから、フランスへ行ってしまうのは
寂しいけど、何時でも顔を見せてね。ふたりの子どもの顔もちゃんと見たいし」
「まだ気が早いよ」

子どもか。何時かはそういう展開もあるんだろうか。
直接でなくても子どもと接する仕事についているけれど、あまり自覚がない。
夫が出来るということはつまりは子どももできるということで。


ああ、明日には離れるっていうのに何妄想してるんだろう。





「おかえりなさーーーい」
「フェルさん。来てたんですね」
「ハイ。来てましたよ。明日には知冬君、フランスへ帰っちゃうからねー」
「それにしては嬉しそうな気が…」

夕飯は何がいいかと知冬にメールしたら買い物はしないでも大丈夫と帰ってきた。
彼が何か作っているのかとヒヤヒヤしていたがどうやらフェルナンドがいたからで。
そこはとても安堵した。

「そんな事はないけどね。ないけど。これから何かあったら俺に頼ってね」
「は、はあ。…ありがとうございます。でも、後ろ。すごい怖い顔で睨んでますけど」
「アラ!居たの!あははは」
「……」

普段から元気が有り余ってそうな人だけど、
今夜はやたらテンションが高い気がするのは気のせい?
料理をしながらお酒でも飲んでいるのだろうか?

「ただいま知冬さん」
「おかえりなさい。…志真、何があってもあの男を部屋に入れてはいけない」
「分かってます」

知冬に強く返事をして頷いた。
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