紳士な婚約者の育てかた

「知冬さん。背中見せて」
「とっくに消えてますよ。1年と3ヶ月も経過したら」
「いいから」

お風呂からあがり髪を雑に乾かして彼が待っている部屋へ向かう。
最初、水が合わなくて肌や髪がボロボロになると泣いていたら
長湯にあった水を調達してくれて。毎回は申し訳ないのでたまの贅沢。

「……どうぞ」

志真の言葉にしぶしぶ上着を脱いで背中を見せる知冬。

「よし。もう一回あとをつけましょう」
「付けた所でもう1秒だって待ちませんから」
「分かってます。今のは冗談。…もし残ってたら嫌だと思って。凄い綺麗に消えてる」
「当たり前ですよ。もういい?どうせ脱ぐなら全部脱いで君と」
「はいはいはい。もういいもういい」

満足した様子の志真をチラっとみて服を着直す。

「夕飯は外で食べませんか。毎日ここでは飽きるでしょうし」
「毎日っていうかまだ来て4日目だし全然飽きないですよ?」
「そうですか。では予約はキャンセルしておきます」
「あーもー!そうやって意地悪するんだから。行きます。地中海料理食べたい!」
「……すみません、どっちかっていうとプロヴァンス料理なんですが。キャンセル」
「しないでいいですもう食べられたらなんでもいいから。知冬さんと一緒ならなんでもいい」

相変わらず難しい人。でも、気遣ってくれているのは嬉しいし外出もしたかった。
車の運転が出来ない志真は仕事場の学校までをマリアが連れて行ってくれる予定。
そう、あの暴走運転を平気でこなすあのマリア。今からもう気を失いそうだけど我慢。

よくみたら他の運転手たちも似たようなものだし毎日乗っていれば慣れるだろう、
と楽天的に考えるしかできない。

「行きましょうか」
「あ。まって。メイクを」
「しなくても大丈夫」
「せめてそこはしなくても可愛いよくらい言って」
「言わなくても志真は可愛い。……で、どうですか?」
「どうもしないです」

一瞬だけ喜ばせてすぐ落とすのやめてください。虚しくなってくるから。
軽く香水だけふって知冬の運転で家を出る。
場所はあれこれ説明されたけど知らない地名すぎてさっぱり不明。

お店は山の上にあってテラスからはコート・ダジュールの海を一望できるらしい。
知冬さんにしては気の利いたロマンティックな場所を選んだものだと内心思った。

「ワイン、飲む?」
「ううん。知冬さんが飲まないなら私も飲まない。こういうのは一緒がいい」
「そう。わかった」
「まさかワインまで何か凄いの予約してました?」
「いや。君ならそう言うと思って用意はしてない」
「流石ですね」
「1年と3ヶ月待ってましたから」
「それ何時まで言うんですか」
「そうですね。1年と3ヶ月後くらい?」
「い、嫌味っすっごい嫌味!」
「誰が悪い?」
「……わ、私かなぁ」

< 97 / 102 >

この作品をシェア

pagetop