紳士な婚約者の育てかた
えぴろーぐ2

でも別に待たせたくて待たせたわけじゃなくて、色々と準備をしてたわけで。
いかに勉強したかとか苦労を乗り越えたとか話をしたはずなのに。
彼からしたらそんな苦労しなくてもフランスに来たら何不自由なく暮らせると
いいたいみたいだけど。確かにそうなんだけど。

応援だけするよりも自分も仕事して稼いで土地に馴染んで溶け込んでいきたい

みたいな。

「志真。足元がちょっと危ない。手を」
「うん。…ほんと高い所なんですね。凄い景色いい」

結構な長旅を経て辿り着いたレストラン。山の上というだけあって車で登る登る。
何処までも上がっていくんじゃないかとちょっと不安になるくらいだった。
やっとお店が見えて、車を駐車場にとめて知冬に手をひかれ中へ。

「メニューは読める?」
「任せてください!これくらいなら……じ、辞書があればなんとか」
「俺が決めていい?」
「はい…」

テラスにある席に案内されて知冬にさっさとコースを決めてもらって。
もう半分ほど沈んだ夕日に照らされる海を見る。こんな景色テレビや雑誌でしか
見たことが無かったから、吹いてくる風も匂いもなんだか自分の知らないものみたい。
自分が全く土地勘のない異国の地に居るのを今肌で感じている。

「幾ら良い景色でも叫ぶのはやめてください、恥ずかしいから」
「知冬さんのバカヤロ―!って叫んでやる」
「ばかやろー?」
「あ。前菜が来た」

場所が良いからだろうか?説明を聞いてもいまいち何かよくわからない
前菜だったけどとっても美味しいもののような気がした。
続く料理たちもどれも謎めいていたけれど、美味しかったと思う。

どんな味だったかと聞かれると説明し辛いけど。

「この店はナンドから聞きました」
「なるほどそれで」
「え?」
「いえいえ。とっても良いお店ですね、景色も最高」

やっぱりこの人がこんなオシャレな俗っぽい所を知っているわけがないんだよね。
何かちょっと離れた所で若いカップルが肩を抱き合って海を眺めているし。
恋人同士がイチャついたりいい雰囲気になるにはもってこい。

「プロポーズするならこういう雰囲気の場所でやればいいと」
「……。…ど、どうぞ。…してください」

ついに来た!プロポーズ!

「やめました」
「やめたの!?何で!?」
「志真。声が大きい」
「だって。何でやめるんですか?すっごいそういう雰囲気じゃないですか!」
「どうしてもっていうなら」
「そんな嫌々言われたくないです。…それとも、やめるんですか?」
「何なら今から籍を入れてにいってもいいくらいだ。この国の役所は仕事が遅い」
「そ、それはさすがに」
「もう少し静かな場所で、俺の気に入っている場所で、ふたりだけで話そう」
「分かりました。じゃあ、このアップルケーキとアイスクリームのプロヴァンス風で」
「まだ食べるんですか?」
「食べます」
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