紳士な婚約者の育てかた
彼がくれた指輪もずっとしてるし、この国へ来た時点で
プロポーズの返事はもう決まっているけれど、やっぱり正式に言われたい。
内心、絶景のレストランについた時点で来るんじゃないかと思っていた。
けど彼の中では気に入らなかったようで食事を終えてあっさりと店を後にする。
次は何処へ行くのかとお腹いっぱいのいい気分で待っていた志真。
「腹ごなしに少し歩こう」
「嫌味?」
「え?何が?」
「ううん。いい。歩く」
テラスから見えていた海なんて素敵だなとか想像を膨らませていたのに。
普通に家の駐車場まで戻って来てがっかり。
でもそのまま真っすぐに家に帰るわけではなさそうで、手を繋いで歩き出す。
夕暮れののどかな田園風景。時間帯もあってか他に人は居ない、お散歩コース?
「正直海も山も川も好きじゃない」
「そんな気はしてた」
自然にまみれて大はしゃぎする知冬さんなんて全然想像出来ないもの。
「結婚したら奥さんの為に色々行ったほうが良いと言われた。家に閉じ込めるのは可哀想だと。
だから、引っ越そうと思って。もう少し便利な場所に。君の仕事場にも近い場所に」
「いいの?アトリエ気に入ってたんじゃないんですか?」
「君が嫌になって帰ってしまうよりはいい」
「そんなにすぐには帰りませんって。たまに里帰りするくらいで。ホームシックもない」
やっぱり異国の地でずっと暮らす事になる私を気遣ってくれているんだ。
優しい人。
「俺が無理に婚約してもらったから。まだその気のない君に。
ずっと君が来ないのはそのこともあるんだろうと思ってたから」
「それは」
「来てくれてありがとう。君から聞いた夜は涙がでるほど嬉しかった」
「……」
「お互いの気持ちが揃っていなくても人生はまだもう少しだけ長いから
一緒に生きていくうちに何時かは同じくらいになれたら良いと思ってる。
その努力ももちろんする。だから、俺と結婚してください」
「……、…はい」
「って目的地についたら言おうと思うんですけど。どう思います?」
「ハイって言ったでしょ!ハイって!それ以上に何言うんですか!ばか!」
「ははは。冗談です。すいません」
「も……もぉおおお!」
優しくない!難しくて嫌味!あと!ばか!ばか!
「怒った志真の顔がかわいいから。つい」
「ついじゃないの」
「すみません」
「もう一回。きちんと。顔を見て言ってほしいです」
そう言うと知冬は立ち止まり、志真の手を握ったまま彼女を見つめる。
綺麗なヴァイオレットの瞳。
「志真を愛してます。結婚してください」
「みじかっ。……はい。よろしくおねがいします」
「夜が楽しみ」
「……」
「顔真っ赤」
「……ばか」