気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
「そろそろ戻るか。変な誤解をされたら困るだろ」

「あ……はい……」

賀上さんが凭れていた壁から背中を離したので、問いかける機会を失ったわたしはそのままうつむく。

もう少し、落ち着いてから戻りたい。あのふたりの姿を見て、もやもやした気持ちが表にでないようにするための時間が欲しい。

「すみません、トイレに寄ってから戻ります」

「……ああ、わかった」

賀上さんはそんなわたしの気持ちを察したのか、視線を残した後、先に戻っていった。

ひとりになって、わたしは深いため息を吐く。
泣くとか喚くとかそういう大きな感情の爆発ではなく、ゆっくり下降するように気持ちが沈んでいく。

景さんだって過去に恋くらいしていて当たり前だ。わたしだって、景さんを好きになる前に恋をして、付き合った人が何人かいる。

いちいち落ち込んだってしょうがないのに、景さんと峯川さんの姿を思い浮かべると……なんだかなあ。

しばらくトイレの鏡の前でもやもやと格闘した後、よし、と気分を押し上げるようにして三人がいる席へ戻ろうと通路へ出た。

そして賀上さんと話をしていた場所の角を曲がったとき、前から峯川さんが歩いて向かってきていて鼓動が大きく跳ねた。
< 51 / 107 >

この作品をシェア

pagetop