気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
言葉に詰まったわたしを、峯川さんが小馬鹿にするように見た。
それが悔しくて、カッと頭に血が上る。

こんなに怒りが込み上げてくるのは、景さんや会社を『ダメ』と言われたからという理由だけでなはいと自分でもわかっているけど、違う、と否定したかった。

「くだらない気持ちと混同させて激怒しないでくれるかしら?」

「混同なんかしていません! わたしは、景さんのことを酷く言ったあなたが許せないだけです。会社のことも馬鹿にされているみたいで、腹が立ったんです。仕事仲間として、わたし、わたしは――」

話している途中で峯川さんの視線がわたしの背後に向いていた。
怒りに任せて声を張り上げていたわたしの口許が後ろから手で、ぐっ、と塞がれる。

「すみません、うちのかわいい子犬がうるさく吠えているみたいで」

「……ええ、本当。躾がなっていないんじゃないかしら」

「飼い主がこんな俺だからしょうがないということで、勘弁してください」

――景さん。
わたしの耳元で宥めるように響くふざけた冗談に、カッとなっていた頭が少しずつ冷めていく。峯川さんも短く息を吐いてフイッと顔を背けた。

「まったく。わたしは化粧を直しに行きたいのよ」

そう言って体を翻した峯川さんは、トイレの方へ歩いていった。
去っていくのを見ていると口許から手が離れて、わたしの視界の端にすっと景さんの姿が入り込む。
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