密星-mitsuboshi-
ベッドの上で眠る渡瀬を見つめながら、早紀は傍らでその髪を優しく撫でた
会社ではいつも自信満々で、部下から憧れと尊敬を集める渡瀬が見せた脆い部分
早紀はそんな渡瀬が愛おしかった

朝、ツーショットを見せられた時も
自分が関わることのできない時間も
覚悟していたとはいえ、頭ではわかっていることに心がついていかない
早紀は、嫉妬していたことを素直に言えない自分に残念な気持ちになった
早紀の指先が渡瀬の頬に触れたとき、渡瀬の目がうっすら開いた

「ん…あー悪い、寝てた」

「ううん、大丈夫。寝てていいよ」

渡瀬は上半身を起こすと早紀の肩に腕を回した
早紀はその肩に頭を乗せた

「ごめん、俺だいぶ寝てた?」

「1時間くらいかな」

「そうか… 
 眠らないのか?」

「うん、もう少し。
 寝たら一瞬で朝になっちゃうから
 なんか勿体なくて
 起きてたら時間がゆっくり進む気がして」

その言葉に少し切なさを感じた渡瀬は早紀を抱き寄せた
肌を通して伝わる渡瀬の体温がいつもより熱く、鼓動も早く感じた

「身体、熱い気がする
 大丈夫?」

「きっと欲情してるからじゃない?」

「なっ!」

渡瀬は口元だけニヤっと笑うと、
目を見開いた早紀のおでこに軽くキスをしてそのまま早紀をベッドに沈ませた


翌朝、2人は渡瀬のスマホから鳴り響く電話の着信音によって起こされた
それは里緒からのモーニングコールではなく、システム部からのシステムトラブルに関しての連絡だった

「…はい。はい、わかりました。
 できるだけ早く出社します」

電話を終えた渡瀬は、心配そうな顔でベッドから見いている早紀の頭を軽く撫でた

「悪い、今日から新しく使う予定だった
 請求ソフトにトラブルで行かないと。
 使い物にならないと仕事が半分止まるんだ
 役員会議で無理やり通したことだから、
 うまくいかないとちょっとマズいってのに…
 もう少しゆっくりしたかったんだけど
 ごめんな」

早紀は笑顔を浮かべた
その頬に触れた渡瀬の手はいつもより温かかった

「私のことは気にしないで大丈夫」

その言葉に渡瀬は頷くと、スーツに着替え、洗面台の鏡の前で手早くネクタイをしめた

「お前はまだゆっくりしてな
 また会社で会おう」

渡瀬はそう言うと早紀の唇にキスをして優しく笑うと、すぐにきりっとした表情に変わった
玄関で靴を履く渡瀬の後ろで、早紀は手に持っていたのど飴をひとつ、
渡瀬のカバンの中に忍ばせた

「行ってくる」

振り向いた渡瀬に早紀は笑顔で手を振った


早紀が会社に出社すると、
管理部の席の周りには見知った顔が2人
タブレット片手に三木と話をしているシステム部の北島と
渡瀬の席に座りパソコンと向き合っている桃井だった
桃井は時折、そばに立ち、パソコンを除きこんでいる渡瀬に何かを確認しながら、至極真面目な表情でキーボードを打ちマウスを動かしていた

管理部の社員全員が通常業務に戻ったのはお昼前のことだった

システム部が引き上げるのと同時に、渡瀬も今回のトラブルについての会議に出向き、
結局終業時間が過ぎても自席には戻ってくることはなかった



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