プリテンダー
自分のした事は棚に上げて、僕の事なんてどうでもいいって感じの杏さんの態度に、なぜか軽くショックを受ける。


杏さん、僕はね。

あなたの婚約者のふりをしながら、僕を好きだと言ってくれる女の子と激しいキスをして、その子の身体中をいいように弄んでたんですよ。

好きでもないのに、期待させるような態度を取って。

相手の体だけでなく、気持ちも弄んで。


……なんて。

杏さんに知られたら言い訳もできないくせに、心の中で打ち明けてみる。

いっその事、こんな僕を杏さんが思いきり罵倒してくれたら、少しは僕の罪悪感も薄れるのかも知れない。





翌日からも何度か、仕事の後に渡部さんと二人で会った。

仕事が終わって帰ろうとすると、会社を出たところで待ち伏せされていたから。

渡部さんはしきりに飲みに行こうとか食事をしようと誘うけど、僕は用事があるとそれを断り駅までの道のりを一緒に歩いた。


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